「失われてしまった土地への郷愁」
独特のカメラワークが切り取る現代中国の風景
また、冒頭からズームが多用されるのも本作の特徴だろう。ズームといえば、韓国の名匠ホン・サンスの映画でよくみられ、画面内の一点に注意を促したり、話の流れを止めることなく画角を変える効果があるが、本作のズームからはそういった意味があまり感じられない。しかしこのカメラワークからもある種の「戯れ」や「無邪気さ」を感じられ、本作の魅力に昇華されているから不思議である。
さて、本作にあえてテーマを見出すならば、「失われてしまった土地への郷愁」ということになるだろう。現に、地盤沈下は現代の中国でも社会問題となっており、北京や上海、西安といった都市部でも観測されている。
双眼鏡から天高くそびえ立つビル群を見る子どもたち。開発に成功したら暮らし向きはもっとよくなるかもしれない―。団地に暮らす人々の心には、もしかしたらそんな思いが去来していたことだろう。しかし、チウ・ションが本作に込めた野心は、こういったシビアな問題をあくまで「甘酸っぱい青春の思い出」の中で描くことにある。
なお、本作は、2018年のロカルノ国際映画祭オフィシャルセレクションで上映され、「魅惑的で不可解なパズルゲーム」(ヴァラエティ紙)、「“スタンド・バイ・ミー” meets カフカの“城”」(ハリウッドリポーター紙)といった称賛が寄せられている。アジア発の「新しい波」の兆しを感じさせる本作。
アピチャッポン・ヴィーラセタクンが好きならば、そしてビー・ガンが好きならば、是非とも映画館で観るべき一作である。
(文・柴田悠)
映画『郊外の鳥たち』は3月18日よりほか全国順次公開
【作品情報】
『郊外の鳥たち』
監督:チウ・ション
出演:メイソン・リー、ゴン・ズーハン、ホアン・ルー、チエン・シュエンイ、シュー・シュオ
2018年製作|中国映画|114分
原題:郊区的鳥 Suburban Birds
配給:リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト
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