「好きな日本の映画監督は黒沢清と濱口竜介」
チウ・ション監督が最も繰り返し観た映画とは
――――村上春樹氏から受けた影響について語られましたが、子供たちに向ける眼差しや、小道具の多義性に富んだ使用法において、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(1991)を想起しました。彼の映画はお好きでしょうか?
「エドワード・ヤン監督の作品は全部好きですが、中でも、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は、僕が最も好きな映画であり、数え切れないほど何度も見た作品です。本作を撮っている時に、意識していたわけではありませんが、もしかしたら、無意識的に影響を受けていたのかもしれません」
―――監督ご自身についても伺いたいことがあります。大学院で生物医学工学の学士号をお取りになった後、映画制作の道に進まれたわけですが、なぜ研究者の道から映画製作を志されたのでしょうか?
「僕が大学院で学んだのは、英語で言うところの『Biomedical Engineering』。医学と工学の領域を融合した学問分野です。博士課程には進まず、その後、映画の勉強にシフトしました。
そもそも僕が生物医学の道に進んだきっかけは、脳の電波を解読して人の夢を視覚化するための機械を発明したかったからでした。しかし、脳の電波を読み取って人の夢を視覚化するためには、最低でも50〜60年以上の時間を費やさなければいけないことを知り、これは待てないと思い、美しくて神秘的な映像をすぐにでもクリエイトしたい一心で、志を変えたのです」
―――本作の内容とも深く関わる美しいお答えです。先ほど、村上春樹、エドワード・ヤンという名前が出たのですが、監督が好きな日本映画、影響を受けた日本の映画監督がいらっしゃれば、教えてください。
「そうですね、僕が特別に好きなのは黒沢清監督と濱口竜介監督です。黒沢監督の作品では、とりわけ『トウキョウソナタ』(2008)、濱口監督の作品では『ハッピーアワー』(2015)が好きです」
―――では最後に日本の観客に向けてメッセージをお願いします。
「この映画に出会ってくださり、ありがとうございます。劇場で見た方には、ぜひ自分の記憶、そして自分の失った幼少時代が少しでも見つかることを祈っています」
(取材、文・山田剛志)
【作品情報】
『郊外の鳥たち』
監督:チウ・ション
出演:メイソン・リー、ゴン・ズーハン、ホアン・ルー、チエン・シュエンイ、シュー・シュオ
2018年製作|中国映画|114分
原題:郊区的鳥 Suburban Birds
配給:リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト
公式サイト
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