”ベタな展開”なのに…観客から絶賛されるワケ。絶対に劇場で観るべき理由とは? 映画『F1®/エフワン』評価&考察レビュー

text by 灸 怜太

ブラッド・ピットが主演、ジョセフ・コシンスキー監督がメガホンを取った映画『F1®/エフワン』が、公開中。本作は、最新鋭の撮影技術によるリアルなレースシーンや、F1に挑むレーサーたちの姿が多くの観客の胸を打つ作品だ。今回は、本作の魅力を紐解いていく。(文・灸 怜太)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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映画館で体験すべきリアルな疾走感

映画『F1®/エフワン』
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation.Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

 ブラッド・ピット主演、ジョセフ・コシンスキー監督による激アツなレース映画「F1®/エフワン』が、日本公開2週間で興行収入10億円を突破した。昨今の洋画離れが顕著な日本市場では健闘している数字といえるが、同じコシンスキー監督による『トップガン マーヴェリック』(2022)が、日本での興収137億円の大ヒットを記録していることを踏まえると、なかなか寂しい結果となってしまいそうだ。

 比較的マニアックなモータースポーツを題材にしており、さらに続編でも原作モノでもない完全オリジナル作である『F1®/エフワン』は、いまの観客たちにとって地味な印象を与えてしまったのかもしれない。

 しかし、そのリアルなレース描写と力強いドラマは映画館の大スクリーンで体験するべき魅力に満ちており、まさに、いま“洋画離れ”してしまっているミドルエイジ層につき刺さる要素がテンコ盛りなのだ。

観客を奮い立たせる王道ストーリー

映画『F1®/エフワン』
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation.Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories

 ストーリーは非常にシンプル。かつてF1でも活躍し、様々なモータースポーツを転々としている流しのレーサー、ソニー・ヘイズ(ブラッド・ピット)の元に、昔のチームメイトで現在は新進のF1チーム「APX(エイペックス)」のオーナーとなっているルーベン・セルバンテス(ハビエル・バルデム)が訪れる。

 すでにF1のシーズンは半ばとなっているが、このまま1勝も挙げられないとルーベンは解任させられてしまうので、一縷の望みを託してヘイズをスカウトしに来たのだ。ヘイズはルーベンの想いに応えてチームに参加。若く、才能溢れるが、ちょっぴり不遜なドライバー、ジョシュア・ピアス(ダムソン・イドリス)と共に、再起の1勝を目指すことになる。

 シンプルというか、ベタである。挫折を抱えたベテランが最前線に復帰。若手とのライバル争いと魂の継承。バラバラだったチームが徐々にひとつになり、ビリからトップに駆け上がっていく…。どこかで見たような王道の展開だが、だからこそ面白い。

 そんな絶対に胸が熱くなるストーリーラインを彩るのは、リアルを超えた大迫力のレースシーンだ。

 実写にカメラを積み込んで撮影したという映像はレーサーの視点そのまま。異次元のスピード感と研ぎすまれた感覚までもが伝わってくるようで、観ているだけで凄まじい没入感。F1やカーレースのことをよく知らなくても、クリアな映像と巧みな編集・構成力で、そこに戦略とテクニックが必要なことが理解できるので、モータースポーツの醍醐味まで味わうことができる。

“ズルいほどかっこいい”ブラピの存在感

映画『F1®/エフワン』
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 映像があまりに凄いので、緊張感ばかりが高まってしまいそうなところを、グッと人間臭くしてくれるのがブラッド・ピットの存在感だ。

 彼が演じるソニー・ヘイズは、男の憧れを集めて熟成させたようなキャラクターで、とにかくカッコいい。

 レース場にラフな格好でふらりと現れる。“おっさん”と揶揄されても笑って受け流し、誰も見てないところでマニュアルを読み込んでスキルアップ。若手が科学的トレーニングに傾倒するのに対し、腕立て腹筋の自重トレとランニングでナチュラルにコンディションを整える…。どのシーンも、ズルいくらいにキマっている。

 そしてソニー・ヘイズはF1ドライバーとしてもかなりズルい。ピットインのタイミングをずらしたり、わざとコースを荒らしてレースの進行を止めるなど、ルール違反スレスレのテクニックを駆使してくる。すべてはマシンの性能で劣るチームを勝たせるための戦略なのだが、かなりダーティではある。しかし、これをブラピがやると、許せるのだ。ソニーはチームのテクニカルディレクターであるケイト・マッケンナ(ケリー・コンドン)とすぐに恋仲になるのだが、これもブラピなら仕方ない。どんな反則も、非現実的な展開も、ブラピがカッコいいから成立してしまう。これぞ真のスター映画である。

“枯れオヤジ”路線がハマる、60代ブラピ

映画『F1®/エフワン』
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 ブラッド・ピットは、本作のようなアウトローっぽい役を演じると色気が増す。ブレイク作となった『テルマ&ルイーズ』(1991)、『カリフォルニア』(1993)、『セブン』(1995)、『12モンキーズ』(1995)、『ファイト・クラブ』(1999)…。『ワンス・アポン・ア・タイム イン・ハリウッド』(2019)なんて、マカロニチーズを作って食べている姿だけでカッコ良かった。

 逆に『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)、『ジョー・ブラックをよろしく』(1998)、『デビル』(1997)などの二枚目路線だと、個人的には正直あまり響かない。90年代に青春を過ごしたミドル世代男子にとっては、EDWINのCMでギターを弾きながら「ゴ〜マリサン〜」あのワイルドで少し抜け感のあるブラピこそが、たまらなく刺さるのだ。

 この世代のハリウッド俳優でいえばトム・クルーズ(62年7月生まれ 63歳)、ジョニー・デップ(63年6月生まれ 62歳)、そしてブラッド・ピット(63年12月生まれ 61歳)の御三家がいるが、フィジカル重視で若作りなトムクル、ゴシック&ロックなオシャレを極めるジョニデに対し、ブラピは本作のような反逆心を失わない枯れオヤジ路線が板についてきた。好みは分かれるところだが、このイケオジレースも60代のコーナーをまわって、ブラピが抜き返してきたように感じる。

『F1®/エフワン』は、最新鋭の映像技術と王道のストーリーに、ブラッド・ピットという唯一無二なエンジンを搭載した、極めて精緻なマシンのような作品だ。あとから配信で観ても「映画館に行っておけばよかった…」と後悔すること確実なので、まだ公開しているならすぐに劇場に駆けつけたほうがいい。

(文・灸 怜太)

【作品概要】
監督:ジョセフ・コシンスキー『トップガン マーヴェリック』
プロデューサー:ジェリー・ブラッカイマー『トップガン マーヴェリック』
脚本:アーレン・クルーガー『トップガン マーヴェリック』 
出演:ブラッド・ピット/ダムソン・イドリス、ケリー・コンドン/ハビエル・バルデム
配給:ワーナー・ブラザース映画 
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
#映画F1
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【了】

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