「ラッセル・クロウは最高のコラボレーター」映画『ランド・オブ・バッド』ウィリアム・ユーバンク監督、単独インタビュー

text by 灸怜太

『グラディエーター』(2000)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した名優ラッセル・クロウ。彼が、リアム・ヘムズワースとW主演を務める『ランド・オブ・バッド』が8月15日(金)に公開される。そこで今回は、監督のウィリアム・ユーバンク氏にインタビューを敢行。現代の軍事作戦をリアルに描いた本作の魅力を語っていただいた。(文・取材:灸怜太)

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90年代ジャンル映画への愛が詰まった作品

『ランド・オブ・バッド』
© 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

ーーー『ランド・オブ・バッド』は、リアルなミリタリーアクションという枠組みのなかに、サスペンスやサバイバル、さらにホラー要素やユーモアまで入っていて、この監督は“わかってる”というか、ジャンル映画がお好きなんだな、と思うような作品でした。

「そう、大好きだよ(笑)。僕は90年代の映画をめちゃめちゃ見ていて、アクション、アドベンチャーから、ホラーやコメディまで好きな作品がいっぱいある。もちろんクラシックな名作もたくさん観ているよ。

この『ランド・オブ・バッド』は脚本も僕が担当しているんだけど、最初はあまり枠組みを決めないで、それぞれのキャラクターに惚れ込んでストーリーを書き進めていったんだ。

物語が展開していくなかでキャラクターがさまざまな面を見せるようになると、作品として『ミリタリーアクション』のような大きなジャンルが設定されていたとしても、その中にユーモアであったり、背筋の凍るようなホラーな瞬間が有機的に出てくるんだよ」

綿密なリサーチが切り開いた新境地

『ランド・オブ・バッド』
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ーーーウィリアム監督はいままで『シグナル』(2014)や『アンダーウォーター』(2022)など、SF的な要素が強い作品が多かったですが、今作で本格的なアクションに挑戦したきっかけは?

「まず、映画監督としてキャリアを始めるには、SFやホラーなどのジャンルからのほうがが入りやすいというのはご存知だよね。出資者が前のめりになってくれるようなフックが作りやすいのが、まさにジャンル映画なんだ。

それに、今後ちょっと違うタイプの作品をやりたいと思った時でも、こういう作品を経験をしていることで、キャストやスタッフからも『それができるんだったらいい作品になるかもね』と信頼してもらえるところはあると思う。

今回の『ランド・オブ・バッド』は、『シグナル』を製作している時に脚本を書いていたんだ。そこでJTAC というドローンなどを使って前線を支援する航空管制業務について調べていたんだけど、その話をどこから聞きつけたのか、本物のJTACの隊員が『興味があるんだったら、訓練場に来なよ』と連絡してきてくれたんだ。

さっそく訓練場に行くと実際の装備や設備を見せてくれて、JTACがどういうことしているのかを1から10まで全部教えてくれた。現役の隊員たちからも、戦闘時の心構えやメンタルについて話を聴かせてもらって、本当にたくさんのことをリサーチできたんだ」

最高のコラボレーター、ラッセル・クロウ

『ランド・オブ・バッド』
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ーーー『ランド・オブ・バッド』では、ラッセル・クロウが熟練のJTAC隊員無人戦闘機オペレーター「リーパー」を演じています。ユーモアたっぷりだけど仕事が出来て、組織に対してはちょっと反抗的。こんな豪快な人物はさすがにJTAC無人戦闘機オペレーターにいないですよね?

「確かに、JTAC無人戦闘機オペレーターにはリーパーのような人物はいなかったね(笑)。あれはラッセル・クロウ本人から発展したキャラクターなんだよ。

リーパーはとても優秀な軍人で、仕事に関しては強迫性障害なんじゃないかというくらいに集中する。でも、その任務から離れると、ユーモアがあっておしゃべりで、同僚から尊敬されるような人間性がある。

それでいてプライベートは結構ゴチャゴチャしていて、何度も結婚して子供もたくさんいて、さらに新しい奥さんとの間に新たな命が生まれそうという状況。

そのコントラストがとても面白いんだけど、これにはラッセル本人のキャラクターや生き方が反映されているね」

ーーーウィリアム監督は、ラッセル・クロウとは以前から面識があったそうですね。

「僕がラッセルと初めて会ったのは『ナイスガイズ!』(2016)という作品のころ。僕もあの作品に少し関わっていたんだけど、その準備かプロモーションか何かの時にビバリーヒルズのホテルにいたラッセルに挨拶して、僕が企画していた『ワールドブレイカー』や『ラストドルイド』という作品の説明をする機会があったんだよ。

その時はいろいろあって一旦中止になったんだけど、しばらくしてから今回の『ランド・オブ・バッド』の企画が動き出して、彼に連絡したらすぐに気に入ってくれて、一緒に仕事することになったんだ」

ーーー本作のラッセル・クロウは司令室から支援する役回りなので、激しいアクションシーンはなかったですが、その迫力と存在感はさすがでした。

「彼はすごい俳優だけど、一方で偉大な監督でもあるんだよ。ラッセルのシーンを撮影中に、同時に別の場所で撮っていた特殊効果のショットがゴタついて、僕がどうしてもそちらの現場に行かなきゃならない状況が発生してしまったんだ。そのときラッセルが僕を指差して、『これを撮ればいいんだろ? 俺がやっておくよ」と言ってくれてね。

それで特殊効果のシーンを片付けて戻ってきたら、『あのシーンはこういう風に撮ったから心配するな』と、本当に撮り終えてくれてたんだ。彼はさまざまな経験をしてきているし、常にいろんなアイデアをやりとりできるから、最高のコラボレーターなんだよ」

ナイーブな青年が「戦士」になるまで

『ランド・オブ・バッド』
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ーーー本作にはラッセルが演出したシーンも入ってるんですね! そんなラッセルが演じたリーパーが支援するのが、戦場の最前線で命を掛けて戦うコマンドチーム。その中心人物となるキニー軍曹役には、リアム・ヘムズワースがキャスティングされています。

「リアムは、ラッセルが監督・出演した『ポーカーフェイス/裏切りのカード』(2024)という作品で一緒に仕事したばかりで、『いいヤツだし。役者としてもすごく優れているから』と推薦してくれたんだよ。それでラッセルを通して連絡を取ったら、リアムもやりたいって言ってくれたんだ。

リアムは、お兄さんのクリス・ヘムズワースと同じで、背が高くて、体も凄くたくましい。だけど、どこかナイーブな雰囲気があるんだよね。今作のキニーという役は、実際の戦闘経験は乏しいけど、生きるか死ぬかの最前線に送り込まれて、サバイバルしながら大人になっていく。そんな成長要素のある役柄にリアムはピッタリだと思ったんだ。

作品では、キニーの少年っぽいところをどう表現しようかと考えて、冒頭でキニーがfroot loopsという子供向けのシリアルを手にして悩んでいて、先輩隊員のビショップに取り上げられるというシーンを入れた。実は、その時のfroot loopsをビショップがずっと隠し持っていて、最後にキニーに返すというシーンがあったんだけど、スタッフから『あんなに激しい戦闘のなか、彼はどこにそれを隠していたんだ?』と指摘されたんで、最終的にカットしたよ」

ーーー確かにそんな余裕がないほどの激しい戦闘と過酷なサバイバルが描かれています。特にジャングルでのアクションはリアルで緊張感のある展開でドキドキしました。

「ジャングルでの撮影はぜんぶ大変だったけど、特に夜間撮影には苦労したね。キニーたちにヘリがうまく近づけなくて脱出を失敗してしまうシーンがあるんだけど、夜はなかなかヘリが飛ばせなかったから、『デイ・フォー・ナイト』という、昼間に撮って夜間のように見せるテクニックを使っているんだ。僕はカメラマンのロジャー・ディーキンスを尊敬していて、彼が『007/スカイフォール』で撮った、黒とブルー以外の色彩を抜いて作った、とても美しいスコットランドの夜の画を参考にした。

でも、今回の舞台はジャングルだし、しっとりとした夜の色合いの直後に大爆発が起こって夜空が炎で赤く染まってしまうので、そのコントラストを表現するのに苦労したよ。ほとんど無謀な挑戦だったけど、楽しかったね」

極限の環境が生むホンモノの恐怖

『ランド・オブ・バッド』
© 2025 JTAC Productions LLC. All Rights Reserved.

ーーー映画の終盤ではグッとトーンが変わって、キニーがテロリストたちに捕まって監禁・拷問されたり、肉体と肉体がぶつかりあうような無骨なフィジカルアクションも展開して、非常に迫力がありました。

「あの監禁施設の撮影現場を訪れたリアムが『僕の役者人生でこんなに汚くてグロいセットは初めてだ』と言ってたよ(笑)。

血と汗と土まみれになって、何度も水に顔を突っ込まれたりするから、俳優たちにとってはハードで大変だったと思う。撮ってる方もそんなにたくさんテイクも撮れないシーンばかりだったから、かなり集中しなくちゃいけない状況だったね」

ーーーあの嫌な雰囲気の監獄は、実際に不快な現場だったからこそ生み出せたんですね。

「撮影した場所がオーストラリアだったんだけど、暑くて湿度も高くて、空調がまったく効かないような状況だった。でも、そんなギリギリの限界だからこそ引き出せるサスペンスや恐怖というのはあるし、観客にもそういう感触を伝えられる。セットでも、その空間を正しく作ることができれば、その空気や環境を感じて、役者たちも自然にそこに入っていけるんだよ。

そこでキニーが頭から水に突っ込まれる拷問シーンがあるんだけど、せっかく顔に血しぶきや泥を付けているのに、水に顔をつけてしまうとすべて洗い流されて綺麗な顔になってしまうんだよ。

そこでみんなで考えて、髪を掴んで拷問している敵役が、手の中に泥水や赤黒い血を染み込ませたスポンジを隠し持って、水から顔を上げた瞬間にギュっとスポンジを絞って顔を汚すという方法を編み出したんだ」

配信ではなく劇場で

映画『ランド・オブ・バッド』ウィリアム・ユーバンク監督
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ーーーさまざまなアクシデントをアイディアで乗り越えていく、活気のある現場の雰囲気が伝わってきます。そんな監督の作品が日本で劇場公開されるということについて、どんなお気持ちですか?

「僕は日本映画もたくさん観ているし、日本のアニメも大好き。特に宮崎駿監督の作品は研究しているといってもいいくらい何度も観ているんだ。そんな大好きな日本で、僕の作品を映画館で観てもらえることはとても光栄だし、興奮している。

最近は、この規模のアクション映画だとネット配信されることが多くて、『ランド・オブ・バッド』も他の国では配信のみだったりする。でも僕は映画館で観てもらえる作品を作っているから、劇場公開されることは本望なんだよ。

日本の観客には、『ランド・オブ・バッド』のアクションを堪能して、スリリリングなアトラクションのように楽しんでもらえたら嬉しいな」

(文・取材:灸怜太)

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【了】

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