登場人物の姿勢とポジションによって隠された内面を浮き彫りにする
同性のパートナー・アランに先立たれた喪失感と、かつて妻と娘を捨てた罪の意識に苛まれ、自宅に引きこもっている主人公・チャーリー。そんな彼のもとに、3人の人物が入れ代わり立ち代わり訪れる。
分厚い肉の鎧に覆われたチャーリーは、自由に姿勢を変えることができず、多くのシーンでソファに座ったままである。アロノフスキーは、不自由なチャーリーを構図の中心に置きつつ、彼の部屋を訪れる人々がとる姿勢、ポジション、チャーリーとの距離感によって、人物同士の関係性を繊細かつダイナミックに表現する。
新興宗教の若き宣教師・トーマス(タイ・シンプキンス)は、チャーリーの部屋を訪れると、彼の正面に座り、「僕が力になれることは?」と救済を買って出る。しかし、そのまなざしは頼りなく、腹に一物があるようだ。
2人の人物が正面から顔を突き合わせて対話をする構図は、両者の信頼関係(場合によっては対立関係)を力強く表す。しかし、ここでは、そうした構図に似つかわしくないトーマスの揺らぎを帯びたまなざしが捉えられることで、逆説的に彼の不安定な内面を浮き彫りにするものとなっている。
部屋の中を移動するだけでも一騒動なチャーリー。そんな彼の体調管理と身のまわりの世話をするのは、亡くなったアランの妹・リズ(ホン・チャウ)だ。看護師の資格を持つ彼女は、頑なに入院を拒むチャーリーを叱責する一方、しばしば彼の傍に座り、心休まるひとときを過ごす。
このシーンにおいても、演者のポジショニングによって、登場人物同士の関係性のみならず、カメラでは映すことができない人間の内面が見事に捉えられている。実際、このショットを目にする者は、チャーリーと横並びになって、丸々と肥えた彼の胸部に身を委ねるリズの姿に、チャーリーとの触れ合いを通じて死んだ兄へと思いを馳せる彼女の感情のうねりを見出すだろう。