贅沢なリメイク…感動のラストは? 映画『生きる LIVING』忖度なしガチレビュー。カズオ・イシグロが黒澤明の名作を翻案
text by 寺島武志
黒澤明が1952年に発表した日本が誇る名作映画をノーベル賞作家カズオ・イシグロが大胆に翻案したイギリス映画『生きる-LIVING』が公開中だ。末期ガンに冒され、余命半年の診断を受けた男を主人公にした本作は面白い? つまらない? 忖度なしのガチレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】(文・寺島武志)
脚本を務めたのはノーベル賞作家
黒澤明の名作がイギリスを舞台に蘇る
本作は、1952年に製作された黒澤明による監督・脚本の邦画の名作『生きる』を、当時のイギリスを舞台とし、ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロの脚本の下、リメイクした作品だ。
堅物の主人公・ウィリアムズ(ビル・ナイ)はピン・ストライプの背広に身を包み、山高帽を目深に被った、絵に描いたような堅物の英国紳士だ。
映画は、役所の市民課に配属された新入りのピーター(アレックス・シャープ)の初出勤のシーンから始まる。先輩たちと同じ車両に乗り込み、次の駅で、課長のウィリアムズも乗り込んでくるが、全く違う車両だ。その堅すぎる性格ゆえ、部下たちにも煙たがられているのだ。ウィリアムズ自身も、それを薄々感じており、部下と距離を置いている。
職場でも黙々と事務作業をこなす仕事人間のウィリアムズ。家庭でも妻に先立たれ、息子夫婦にも相手にされずに孤独と虚しさを感じていた。
そんな時、がんに侵され、余命いくばくもないことを知ったウィリアムズ。何を思ったのか。財産の半分の預金を下ろし、睡眠薬を大量に持って、役所を無断欠勤し、イギリス有数のリゾート地・ボーンマスへ向かう。そこで知り合ったサザーランド(トム・バーク)とともに、酒を飲んで、スコットランド民謡「ナナカマドの木」を歌い、バカ騒ぎするが、どこか満たされないでいた。