「“リメイク”とはかくあるべき」
感動のラストシーンは見逃せない
誰しも、若い頃は希望にあふれ、社会に貢献したいと思っているはず。しかし、徐々にそうした情熱は日々のルーティンと共に消え失せ、いつしか、組織の歯車になり果ててしまうのが世の常だろう。本作は、そうなる前に見ておくべき人生の教科書といえそうだ。
黒澤明が残した不朽の名作に敬意を表しつつ製作された本作は、ウィリアムズを演じるビル・ナイの存在感が圧倒的でありながらも、押し付けがましくないキャラクターに好感が持てる。
黒澤明版の『生きる』は、143分という長尺作品だったが、本作は102分だ。しかしながら、押さえるべきプロセスは押さえられており、40 分も端折った感じはしない。加えて、当時のイギリス社会に厳然として残っていた階級制度や、洋の東西を問わず存在する“お役所仕事”の現実をも描き切っている。
アカデミー賞監督賞を受賞し「黒澤天皇」とまで呼ばれ、世界中にシンパがいる映画人が製作したオリジナルに、ノーベル賞を受賞したイシグロ氏の脚本によるリメイクという贅沢な作品だ。
ラストシーンも含め、その名にふさわしい感動を覚える作品に仕上がっている。「“リメイク”とはかくあるべき」と強く感じる作品でもある。
(文・寺島武志)
【作品情報】
『生きる LIVING』
監督:オリバー・ハーマナス
原作:黒澤明 橋本忍 小国英雄
脚本:カズオ・イシグロ
キャスト:ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク
配給:東宝
2022年製作/103分/G/イギリス
原題:Living
字幕翻訳:松浦美奈
©Number 9 Films Living Limited
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