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ネットで話題騒然…。AIが生成した“ウェス・アンダーソン版『スターウォーズ』”。 映画業界で人工知能をめぐる議論が紛糾

text by 編集部

近年、AI(人工知能)の発達により、雇用問題や、報酬の問題などから、多くの脚本家は危機感を感じている。そうした背景も手伝い、全米脚本家組合(WGA)がストライキを起こすなど、その動きは激しさを増している。今回は現地メディアを参考に、AIによって制作される映画作品について解説していく。

AIが作った“ウェス・アンダーソン版『スター・ウォーズ』に賛否

ここ数ヶ月の間で、映画業界では、人工知能関連の話題が多々浮上し、映画やテレビの大作で、脚本家などの映画制作スタッフの代用として、「AI」の使用が改めて話題になっている。

米colliderによると、この問題に対する注目点は、映画スタジオが脚本制作時に、人工知能の使用を求めている点にあるという。映画スタジオは「脚本は消耗品であり、AIのような新しい技術が今後優先されていくべきである」といった見解を示している。

近い将来、機械により制作された芸術作品ばかりが流通する世の中になるかもしれない。最近、ネットで話題になったいくつかの動画はそうした未来をイメージさせてくれる。

AIが制作を行なったショート動画である『Star Wars but directed by Wes Anderson(原題)』は、“ウェス・アンダーソン監督とスター・ウォーズ”という2つの異質なカルチャーを詰め込み、新しいものを生み出すという、まさにAI機能の縮図のような作品に仕上がっている。しかしながらこの映像は、映画作品としては見応えがなく、AIの表現力の限界と貧困さが浮き彫りになったものになっている。

ウェス・アンダーソン監督の映画は、手を伸ばして触れたくなるような、しっかりとした質感を持った、ハンドメイドのような作風で知られる。それに対し、AIが制作したこの映像はいかにも無菌的。AIテクノロジー特有の冷淡で、温かみのない質感となっている。

この映像は、テクノロジーの芸術的能力を示すことを目的として制作されたが、結果、不気味で、人間味のない作品に仕上がっている。AIが制作を行なったと知らずに視聴した場合でも、観る者に「何かが変だ」という感覚を抱かせるだろう。

近い将来、映画だけでなく、小説や絵、音楽など、多岐にわたる芸術分野で、アルゴリズムによって生成された、魂のない作品ばかりが流通する事態になるかもしれない。

かつて、画家のボブ・ロス(1942~1995)は、絵の中の小さな傷や欠点を「幸せな小さい事故」と表現した。この言葉は、芸術作品の「欠点」とされるものが、悪いものではなく、実はその作品の個性をさらに際立たせ、より良いものになること言い表している。

AIアートは残念ながら、そのような偶発的で、不完全なものを締め出す働きを持っている。あらかじめ決められた指示に基づき、厳密で、機械的な感覚で作品が生成される。このことから、映画作品やテレビ制作をAIに任せると、「本物の不完全性」に触れる機会が人から失われ、芸術の背後にある大切な人間性が失われてしまう。

しかしながら、映画スタジオの幹部達は、おそらくコストパフォーマンスの良さから、映画作品やテレビ作品をAIが生成するというアイデアに多大な興味を示している。これはアーティストから表現の機会を奪い、観客からは、真に魅力的である芸術作品に触れる機会を奪ってしまうことになる。

全米脚本家組合が、人工知能を芸術に使用することに断固反対しているのには理由がある。彼らはAIが人間の創造性に取って代わることはできないと考えているのだ。

この先AIの発展により、映画作品やテレビ番組がどのようなものに変化するのか。人間の心が産む芸術作品や、それを楽しむ者にとって、どんな未来が待ち受けているのか。これからも業界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。

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