映画『トップガン マーヴェリック』が大ヒットした理由④
「敵はロシア軍」という説は本当か嘘か?
緊迫する世界情勢が与えた影響
『トップガン マーヴェリック』に関して、インターネット上で最も熱い考察が繰り広げられているのは「敵は一体何者なのか?」というトピックだろう。
劇中では、「NATO条例に違反した敵国の核兵器プラントを破壊する」という説明があるのみ。敵兵の顔は厚いヘルメットに隠れてよく見えず、敵の機体に国旗が描かれているわけでもないので、どこの国のどんな組織と交戦しているのか、よくわからないのだ。
敵の正体が曖昧であることから、ネット上では議論が紛糾。様々な意見が飛びかう中、 2022年2月にウクライナへ軍事侵攻を行い、現在NATO(北太平洋条約機構)とバチバチの関係にある「ロシア軍」が敵の正体ではないか? という意見がアメリカを中心に広がっている。
しかし、先述したように、『トップガン マーヴェリック』は、ウクライナ侵攻が世間を騒がす以前の2020年にすでに完成しており、昨今の世界情勢を根拠に敵国が「ロシア」であると断定することはできない。
とはいえ、近年まれに見るほど軍事的緊張が高まっている2022年に『トップガン マーヴェリック』が公開されたことは、その歴史的大ヒットと無関係ではないだろう。
現実の世界で理不尽な軍事侵攻が行われているからこそ、映画館に足を運ぶ観客たちは、トム・クルーズ演じるマーヴェリックが挑むミッションにより深い共感を寄せ、ミッション成功を目にして得も言われぬ快感をおぼえる。つまるところ、『トップガン マーヴェリック』は、現実がもたらすモヤモヤした感情を吹き飛ばしてくれるのだ。
このような作用は、 “敵の正体を明確にしない”スタイルによって実現したものに他ならない。映画の中で敵が特定されてしまうと、現実とのつながりが断たれ、観客は感情移入しにくくなるからだ。
以上、4つの観点から『トップガン マーヴェリック』が大ヒットした理由を考察してみた。ネット上では他にも、「外出規制が緩んだことによる映画館の人気復活」が背景にあるという真っ当な意見から、「80年代レトロブームの影響」や「前作の監督を務めた、故・トニー・スコットの霊的パワー」のおかげとする珍説まで、様々な意見でにぎわっているが、すべての要素が合わさって強大な追い風となっていることは間違いないだろう。未見の方は今からでも遅くない、すでに観ている方はより一層の感動を求めて、ぜひ映画館に駆けつけてほしい。
大ヒット公開中『トップガン マーヴェリック』
2022年/アメリカ合衆国/英語/131分/原題: Top Gun: Maverick
監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:トム・クルーズ、マイルズ・テイラー、ジェニファー・コネリー、ジョン・ハム、グレン・パウエル、ルイス・プルマン、エド・ハリス、ヴァル・キルマー
配給:東和ピクチャーズ