複雑な物語を単純化する「ロロ・トマシ」の発明〜脚本の魅力
本作の脚本の魅力に触れるには、まずはジェイムス・エルロイの原作の見事さに触れる必要がある。
本作の主人公であるバド、エクスリー、ジャックの3人は、それぞれ異なる正義を胸に秘め、お互いに諍いながらそれぞれの目線から事件の犯人を追っている。
そんな彼らが後半、真犯人を追うという目的に向けて共闘し、お互いに友情を深めていくさまは、観客の胸を熱くさせること請け合いだ。また、中盤、一発の銃弾をきっかけに真犯人が明らかになるどんでん返しも観客をハラハラさせる。
なお、原作者のエルロイは、幼い頃に母親を殺されてドラッグや酒に溺れ、強盗や窃盗で糊口をしのいできたという悲惨な経験を持つ。本作には、そんな彼が自身の目で見つめてきたロサンゼルスの闇がこの作品には詰まっているのだ。
また、アカデミー賞脚色賞を受賞した巧みな脚色にも触れないわけにはいかないだろう。
エルロイによる原作は、上下巻合わせて700ページにも及ぶ超大作で、映画に登場する「ナイト・アウル事件」以外にも複数の事件が登場するほか登場人物も膨大で、人物表なしでは読み進めることが困難なほど複雑なストーリーだった。
そこで、脚本を担当するハンソンとブライアン・ベルゲランドは「ナイト・アウル事件」に付随する2つの事件をカットし、登場人物も大幅に交通整理。登場人物のバックグラウンドも省略し、見事に「映画サイズ」の脚本に仕上げた。
とはいえ本作は、原作のエッセンスのみで構成されているわけではなく、映画オリジナルの設定もいくつか盛り込まれている。例えば、「ロロ・トマシ」。エクスリーが、自身の父を殺害して逃走した犯人につけたこの奇妙な名前は、「ナイト・アウル事件」の真犯人の特定に極めて重要な役割を果たしている。
ジャックはロス市警の警部であるダドリー(ジェームズ・クロムウェル)に撃たれると、絶命する間際に「ロロ・トマシ」と呟く。ダドリーはその後、重要参考人として「ロロ・トマシ」の名を挙げ、ジャック殺しの犯人の捜索命令を出すが、エクスリーはそれに引っ掛かりを覚える。
エクスリーが「ロロ・トマシ」の話をしたのはジャックだけであり、ダドリーがその名を知っているのは不自然である。ジャックは「ロロ・トマシ」というダイイングメッセージを残すことで、エクスリーにダドリーが犯人であることを示唆していたのである。