女性ばかりがケアを押し付けられる…。
観る者に問いを突きつける
他にも印象的だったのは、ジェーンがケアを強いられている場面だ。彼女は、前述した掃除や食器洗いだけでなく、突如職場にやってきた子供の世話も任される。笑顔で接してはいるが、表情には陰りが見える。
より広い意味でのケアも担わされる。男性のアシスタントは、おそらく会長の浮気を疑っている妻の電話に出るようジェーンに言い、応対を押し付ける。彼女は言葉選びを間違ってしまったことで、会長から叱責を受けてしまう。
男性アシスタントが“ケア”するのは、ジェーンがさらに会長の機嫌を損ねないように、事態を丸く収めるように謝罪メールの文面をアドバイスするときのみだ。典型的な性別役割分担意識が見てとれる場面だと言えるだろう。
『アシスタント』は、きわめて冷静な視点で搾取のあり方とその維持の仕方を捉えている。あらゆる人が、ここで描かれた抑圧的な環境に直面するかもしれないし、既にその維持に加担しているのかもしれない。この映画は、何かを声高に訴えることはしないが、観客にそれぞれの状況を見つめ直し、考えることを促すはずだ。
(文・島 晃一)
【作品情報】
監督・脚本・製作・共同編集:キティ・グリーン
出演:ジュリア・ガーナー、マシュー・マクファディン、マッケンジー・リー
製作:スコット・マコーリー、ジェームズ・シェイマス、P・ジェニファー・デイナ、ロ
ス・ジェイコブソン|サウンドデザイン:レスリー・シャッツ
2019 年|アメリカ|英語|87 分|原題:The Assistant
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配給・宣伝:サンリスフィルム
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