原作者マリオ・プーゾとシナトラが対面した夜
フランク・シナトラは、初期に素晴らしいキャリアを築き、晩年はさらに有名となるが、キャリア中盤に多くの試練があったようで、彼の卓越した才能とは別に、人気が衰え始めていた。
さらにはハバナ会議(マフィアの全国会議)に同行&マフィアの娘の結婚式に参加、マフィア王として知られるマイヤー・ランスキーと食事をするなど、イタリアン・マフィアと密接な繋がりがあり、当時その関係性は、FBIの監視下に置かれていたという。
映画の基となった小説『ゴッドファーザー』に描かれたジョニー・フォンテーンとコルレオーネの関係を、読者はシナトラとマフィアの関係として受け入れたのは、本作の発表以前から、シナトラとマフィアの関係に関する噂があり、この黒い噂が、彼がスターの座を失いかける一つの理由となったためだ。
しかし、『ゴッドファーザー』の原作者であり、脚本家でもあるマリオ・プーゾは、ジョニー・フォンタンというキャラクターが、歌手フランク・シナトラをモデルにしているという噂を一貫して激しく否定しており、彼はオリジナルのキャラクターだと主張している。
1972年のプーゾ自身の論説によると、シナトラはこの件を非常に気に掛け、シナトラの代理人が、1969年に『ゴッドファーザー』小説の発表前に、原稿のコピーを提出するように要求したという。シナトラは間違いなくフォンタンを自分自身と捉えていたのだ。
その後、プーゾは予期せぬ形で、シナトラと非常に気まずい面会を果たす。ニューヨーク・マガジン誌の掲載によれば、プーゾは、レストランで“大富豪の友人”にフランク・シナトラを紹介されたという。プーゾはシナトラが自分と会話する気分ではないことを直ぐに察知したという。おそらくプーゾは、その時点でシナトラから立ち去るべきであったが、この一件を償おうと試みた。
しかしプーゾを前にしたシナトラは怒りを露わにし、肉体的な抗争には発展しなかったものの、プーゾに侮辱的な言葉を浴びせ、「プーゾがもう少し若ければ、地獄に叩き込んでやるところであった」と発言。 プーゾはこの件に関して、自分とシナトラが同じイタリア系であることから「傷ついた」と述べている。
ジョニー・フォンタンのモデルが、フランク・シナトラというのは、最も一般的な解釈ではある。しかしもう一人、モデルになったと噂のある人物がいる。それが、日本で”シナトラ軍団”として名が知られる、エンターテイメント集団「ラット・パック」のディーン・マーティンだ。
マーティンもまた、キャリアにおいて紆余曲折がありながらも、映画界に入るのに苦労し、最終的に大きな影響力を持ったイタリア人歌手、俳優、コメディアンだ。そのため、彼もジョニー・フォンタンのインスピレーションの源になったと噂されているが、マーティンには、マフィアとの明確な繋がりという決定的な部分が欠けている。
実際にシナトラがジョニー・フォンタンのモデルとなったのかは不明だが、真偽はどうであれ、映画『ゴッドファーザー』の素晴らしさが毀損されることがないのは言うまでもないだろう。
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