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『パラサイト 半地下の家族』脚本の評価

キム家の面々が身分を偽りながらそれぞれの特技を存分に活かし、大金持ちのパク家に“寄生”していく展開は、ブラックコメディさながらの毒々しく、ユーモラスなタッチで描かれる。

長女のギジョン(パク・ソダム)の悪どい戦略によって、パク家に仕えていた運転手や家政婦があらぬ嫌疑をかけられ、次々と追放されるプロセスは非人道的と言う他ないが、貧困階級に属するキムファミリーが意外な才能を発揮して大富豪一家の信頼を勝ち得ていく様子は、第一級のクライムドラマがもたらす感触に似た、胸がすくような爽快感を与えてくれる。

しかし、ブラックコメディとして笑って観ていられるのは中盤まで。キム家のメンバー全員がパク家に取り入ることに成功した中盤以降は、スプラッターホラーを彷彿とさせる展開に様変わりする。パク家の地下シェルターには、半地下に暮らすキム一家よりもさらに苛酷な人生を強いられている存在が息を潜めて暮らしており、おぞましい暴力の連鎖によって秩序立った上下の関係は一転カオスへと突入していくのだ。

ブラックコメディ、クライムドラマ、スプラッターホラーに加え、複数のキャラクターの運命が交差する優れた群像劇でもある。登場人物の性格は明確に描かれており、物語がどんなに意外な方向に転がってもキャラクターの内面は破綻することなく、最初から最後まで安心して観ることができる。

起承転結の「転」にあたる、物語後半の大洪水のシーンでは、キム一家と同じように半地下で暮らしている近隣住民たちの困窮した姿が点描される。それによって、作品世界は現実につながる広がりを獲得。災害描写を巧みに取り込むことで、フィクショナルな物語に深い社会性を与えることに成功している。

大富豪に寄生することで生活を育むキム一家は一見現実ばなれした存在に思えるが、彼らが置かれた環境は決して特別なものではなく、この社会にはキム家につづく第二、第三の「パラサイト」を生み出す余地がある。そうした事態が予兆のような形でそこはかとなく示されるのだ。

共同で脚本を執筆したポン・ジュノとハン・チンウォンは、サプライズに満ちていながらも、クリアなキャラクター描写に基づいた安定感のある物語運びが評価され、アカデミー賞ではアジア勢としては初となる、最優秀脚本賞を獲得。娯楽性と社会性を融合させたシナリオは、未来の映画人にとって一つの指針となるであろう、高い完成度を誇っている。

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