死と隣り合わせの日々を映し出す…。記録映画『ミャンマー・ダイアリーズ』レビュー。軍事政権下の現実に迫る問題作を考察
text by 寺島武志
軍事クーデター以降のミャンマーが舞台の映画としては初めて国際的な場で上映され、第72回ベルリン国際映画祭でドキュメンタリー賞を受賞するなど多くの注目を集めた映画『ミャンマー・ダイアリーズ』が公開中だ。本作の見どころに迫るレビューをお届けする。(文・寺島武志)【あらすじ 考察 解説 評価 レビュー】
ミャンマーの民衆にとっての“地獄のはじまり”を描く
2021年2月1日、ミャンマーの首都ヤンゴンで軍事クーデターが起き、首謀者のミン・アウン・フラインが事実上の最高指導者にあたる国家行政評議会議長となった日である。その半年後、フラインが暫定首相に就任した。その前年に行われた総選挙で、国軍系政党の連邦団結発展党(USDP)が、アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)に大敗したことが、その引き金といわれている。
映画は、そのヤンゴンの公園で、軽快な音楽に乗りエクササイズをする女性のシーンから始まる。その踊りはまるで、約10年に渡って進められてきた民主化を謳歌するようにも見える。しかし、その背後には、続々と軍用車両が集結し、ミャンマーの民衆にとって、地獄の始まりとなる瞬間と捉えている。そして、ミャンマーは1980年代から90年代のソウ・マウン国家元首による軍事政権に戻ってしまったのだ。
しかし、当時と大きく異なる社会背景があった。インターネットの発達である。民衆は、軍や警察による理不尽な暴力があれば、その模様をスマホに収め、SNSに投稿、あるいはライブ配信することも可能となっているのだ。そして、その模様は瞬時に世界へ拡散されていく。