やり場のない怒りをかき立てられる一作
残念ながら、ロシアによるウクライナ侵攻で、ミャンマーの現状について報じられることは皆無となってしまった。しかし、ウクライナの人々と同様に、ミャンマーにも、死と隣り合わせで生き抜いている人が存在することが分かる映像だ。
現在のミャンマー軍事政権は、ロシア、中国のバックアップを受けているとされ、軍もまた、両国から兵器を調達しているといわれている。我が国の対応を見ると、政府からは軍事政権を批判する声明を出しながら、一方では、ODA(政府開発援助)は7億5700万ドル(2019年)にも上る。さらに外務省は、日本政府が供与した旅客船2隻について政権が兵士や武器の移送のために軍事利用したことを確認している。
日本政府は、1988年に起きたクーデターでも軍事政権を承認した過去がある。さらに、軍政下でも、民主化後においてもミャンマー政府との対話のチャンネルを持つ貴重な存在でもある。
ミャンマーでは国軍系の企業が多くのビジネスを行っており、日本のODA事業がミャンマー国軍の資金源となっていることが告発により明らかとなっている。しかし、日本の外務省からはいまだに、ODA事業と国軍系企業との関係に関する説明は行われないままだ。
ODAの資金の流れが軍事政権を利していると疑われても仕方ないというのが現状といえる。クーデター後、いち早く制裁に踏み切った欧米諸国とは対照的に、日本政府は援助を続け、軍事政権とも民主化勢力とも、どっちつかずの姿勢に終始している現状は批判されてしかるべきだろう。
親日国でもあるミャンマーでの現実と、答えの出ない難題を突き付けられ、その理不尽で、やり場のない怒りの感情をかき立てられる作品だ。
(文・寺島武志)
【作品情報】
監督・制作:ミャンマー・フィルム・コレクティブ(匿名のミャンマー人監督たちによる制作)
原題:Myanmar Diaries | 2022年 | オランダ ミャンマー ノルウェー | 70分 | ミャンマー語 |カラー | DCP | 5.1ch
© The Myanmar Film Collective
配給:株式会社E.x.N 宣伝:高田理沙
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