ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » 古くて新しい奇妙な傑作。映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』徹底考察。鬼才監督による”未来の映画”を深掘りレビュー » Page 4

「いつかは枯れる。だが今日ではない」
未知の臓器にも似た未来の映画

© 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. © Serendipity Point Films 2021
© 2022 SPF CRIMES PRODUCTIONS INC AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS SA © Serendipity Point Films 2021

 本作では、あからさまにセックスに喩えられた「サーク解剖モジュール」を用いた解剖ショーのみならず、反復的に映し出される、ベッドや椅子で苦しそうに寝返りを打ち、喉を鳴らすテンサーの姿もまた、過去作のいずれとも異なる、ある種の非性器的で鈍い官能性の感覚に彩られている。たしかに、テンサーを演じるモーテンセンも、装置群を作り上げたスピアも、監督クローネンバーグもみな歳をとった。だが、加齢は単に衰えを意味するわけではないのかもしれない。

 かつてジークムント・フロイトも「反復強迫」という概念を用いて論じたように、近づく死を意識するテンサーにとって、すでに他の人類から失われた痛みや苦しみに繰り返し耐えること、その「不快な経験の反復」は、もはやエロスよりはタナトスに関わる、別種の快をもたらす。そして、その快の副産物として、用途不明のこれまでにない臓器が生み出されることとなるのだ。

 劇中では、睡眠中にあるホルモンが分泌されることが、テンサーの体内に新たな臓器が形成されるサインとされている。間違いなく自分の身体は衰えつつあるし、臓器形成のリズムは決して一定ではなく、事前にホルモン分泌の予想がつくわけでもない。

 初登場場面で体内に新たなホルモンが分泌されたことを知ったテンサーは、そのことを喜びつつも、「枯れたかと思った、いつかは枯れる」と弱音を吐く。しかし、どこか未知の臓器にも似た、一見後ろ向きにも見える未来の映画を作り上げたクローネンバーグらの自負を代弁するかのように、テンサーは彼を励ますカプリースの言葉を噛み締めるように繰り返す。いつかは枯れる。だが、それは「今日ではない」。

(文・冨塚亮平)

【作品情報】

監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワート
2022年/カナダ・ギリシャ/ DCP5.1ch/アメリカンビスタ/英語/108 分/PG12/原題:Crimes of the Future/字幕翻訳:岡田理枝 配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES
提供:東北新社 クロックワークス
© 2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A.
© Serendipity Point Films 2021
公式サイト
Twitter:@cotfmovie

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!