とんでもなく不条理で不謹慎? デヴィッド・リンチ監督の毒舌短編アニメーション作品『DumbLand(原題)』とは?
デヴィッド・リンチ監督と言えば、映画『ロスト・ハイウェイ』(1997)や、映画『マルホランド・ドライブ』(2001)などの人気作だ。しかし監督は実は、アニメーション作品の製作経験もある。ただしその作品内容や製作の意図には謎が残されているようだ。今回は米colliderに基づき、そのアニメ作品について解説していく。
異色のデヴィッド・リンチ監督作品『DumbLand(原題)』の内容とは?
『DumbLand(原題)』と題された8部作のウェブ・シリーズ。本作は、デヴィッド・リンチがこれまでに制作した映画作品と同様に、不条理で異常なアニメーション作品だ。
この『DumbLand(原題)』という作品は、Youtubeや、当時のリンチ監督の自社サイトである「DavidLynch.com」で初公開された。
各エピソードの長さは3分から5分程。その内容は、ランディと呼ばれる、短気でオバカな男を中心に描かれている。
ランディは、トロールのような顔と3本の歯が特徴のキャラで、常に口を尖らせている。どのエピソードでも、パニックを起こすランディの妻や、ハイテンションな息子などが登場。さらにランディは、隣人、親戚、訪問者など、周囲の人々に対し、超暴力的な行動に出る。
硬質でありながら、ぐにゃぐにゃとした乱雑な線、一貫性のないキャラクターデザイン、ディテールの欠如が『DumbLand(原題)』の白黒世界を構成している。アニメーション自体も洗練されているとは言い難く、不愉快な動きが多い。
結局のところ、子供のアニメ作品のようになっているものの、その幼稚な作風とは裏腹に、作品内容は子供向けとはほど遠い。
ランディは前述したように気性の激しい主人公で、どのエピソードにおいても、彼が罵声を浴びせる場面が描かれる。彼は巡回セールスマンの首を折ったり、交通を妨害し、自動車事故を引き起こすなどといった過剰な暴力に加え、下品な言葉も溢れる。
しかし、ランディはシリーズを通して報いを受ける。例えば、蟻を駆除しようと試みるものの、誤って自身の目に虫除けスプレーをかける。蟻たちは、そんなランディを罵るようなミュージカルを始める。
ランディは歌い出す蟻を踏み潰そうとし、天井まで追いかけ、頭から激しく落ちる。最後のショットでは、ランディが苦悶の叫びを上げるのだが、これはデヴィッド・リンチ監督の作品の中では珍しいラストである。
デヴィッド・リンチのほとんどのプロジェクトがそうであるように、『DumbLand(原題)』もまた、見る者に多くの疑問を残す作品になっている。この作品の完全な意味は、結局はっきりしないままだ。
映画『ブルーベルベット』(1986)のように、リンチは、家庭内に根付いた潜在的な暴力について、何かを伝えているのかもしれない。もしくは、単に楽しさを求めてこの作品を作った可能性も高い。
英The Guardian紙によると、リンチはこのシリーズを全て一人で制作したとのこと。声や効果音は自分で録音し、アニメーションも自分のパソコンで制作したという。
米variety誌では、リンチは本作で初めてのPCソフトのFlashを使用したとのことを認め、このシリーズは「とても粗雑なものになるだろう…」と予言していた。
とはいえ、『DumbLand(原題)』には、デヴィッド・リンチ作品の定番がいくつか残っている。例えば、ウィットに富んでいるナンセンスなセリフ、不気味な設定、道徳的に不謹慎な登場人物、気の遠くなるような音の使い方などだ。
さらに、リンチがアニメ製作に使用したソフトである、マクロメディア・フラッシュが登場したのは2000年代の変わり目であり、これがいかに原始的なソフトであるかを考えると、本作の出来栄えは賞賛されるべきものがある。
彼のような高名な監督が、キャリアの絶頂期にこれほど不謹慎な作品を発表するのは非常に珍しい。遊び心と幼稚さはあるものの、このような作品の製作を通して、その独創性を養っていたのかもしれない。
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