ホーム » 投稿 » 海外映画 » 劇場公開作品 » SNS時代の”死に至る病”とは…? まったく新しいホラー映画『シック・オブ・マイセルフ』を徹底考察。タイトルの意味も解説

SNS時代の”死に至る病”とは…? まったく新しいホラー映画『シック・オブ・マイセルフ』を徹底考察。タイトルの意味も解説

text by 司馬宙

SNS時代、誰もが身に覚えがある「承認欲求」を題材に、北欧の新鋭クリストファー・ボルグリ監督が描くホラー映画『シック・オブ・マイセルフ』が現在公開中だ。今回は、「いいね!」欲しさに生まれてしまう承認欲求の社会問題を解説すると共に、本作の魅力を徹底考察&解説する。(文・司馬宙)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】

誰もが有名になれる現代が生み出した
「承認欲求の暴走」という病理

© Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Väst 2022
© Oslo Pictures Garagefilm Film I Väst 2022

心理学の用語であった「承認欲求」という言葉が市民権を得るようになって久しい。

きっかけは、X(旧Twitter)やFacebookといったSNSの登場だろう。「いいね」やフォロワー数、インプレッションが表示されるようになったことで、個人に対する関心度が定量的に可視化されるようになったのだ。

こういった指標は、あくまで私たちの付加価値であり、私たちの存在価値ではない。しかし、「誰もが15分以内に有名になれる」(by アンディ・ウォーホル)この時代では、エンゲージメント数がさも自分の生きる価値であるかのように錯覚してしまう。本作の主人公のように。

本作は、破滅的な自己愛を映したノルウェー・オスロ発の作品。第75回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品されるや、世界の映画祭を席巻。アメリカでは小規模公開にも関わらずスマッシュヒットを記録し、上映館が拡大したことでも話題を呼んだ。

監督は、本作が長編2作目となる俊英クリストファー・ボルグリ。主演は『ホロコーストの罪人』(2020年)など、多数の話題作に出演しているクリスティン・クヤトゥ・ソープが務める。

ポップなファッションにスタイリッシュなアートワークー。監督自身「A24」からの影響を公言しているだけあって、本作は一見現代的なガーリームービー(少女映画)にみえる。しかし、ルックに騙されてはいけない。本作の本質は、「史上最恐の承認欲求モンスター」を描いたホラー映画だ。

主人公は、現代アーティストのシグネ。競争関係にあった恋人のトマスがアーティストとして脚光を浴び、激しい嫉妬心と焦燥感に駆られた彼女は、世間の注目を集め、「自分らしさ」を手に入れようと、とある違法薬物に手を出す。薬の副作用で入院することとなり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望は次第にエスカレートしていくー。

1 2 3 4 5
error: Content is protected !!