『ファイト・クラブ』 脚本の魅力
原作はアメリカの小説家・チャック・パラニュークが1996年に発表した同名小説。「編集者にいやな気分を味わわせたい」という動機から書かれた原作は、暴力礼賛的、体制転覆的、価値破壊的な特上の危険物であり、言うまでもなく、映画版のシナリオもそうした特徴を共有している。
とはいえ、タイラーが目論む都市破壊計画に対し、小説版の「僕」は乗り気満々であるが、映画版では仲間外れにされ、計画を知って阻止しようとするなど、良心が垣間見える。
また、小説版において「僕」とタイラーは、ヌーディストビーチ(利用者が自由に全裸になれる海水浴場)で出会う設定となっているが、映画版では飛行機の中に変更され、マッチョ的な雰囲気はある程度軽減されてはいる。
しかし、原作に比べてマイルドであるとはいえ、ルサンチマン(復讐感情)を発散する手段として暴力に肯定的な光を当て、ガン患者を揶揄するような描写や主体性を欠いた女性の描き方など、観る者を不快にさせるような部分が目立つのも事実。
一方、ポリティカル・コレクトネス無視の過激な世界観が身上の作品であるため、結局のところ、評価は観る者の価値観に委ねられるだろう。逆に言うと、賛否両論を引き起こす、という意図に沿って書かれた物語であるとすれば、非常に完成度の高いシナリオであると評価できるだろう。