『ファイト・クラブ』 配役の魅力
主演の「僕」を演じたエドワード・ノートンは、本作公開の前年に出演した『アメリカン・ヒストリーX』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど、ハリウッド屈指の演技派として知られる存在。
本作で見せる無気力な演技があらわすのは、あらゆるタイプの商品を市民の眼前に突きつけ、購買意欲を四六時中刺激し続ける大量消費社会に生きることの疲労、漠然としたフラストレーションである。
色白で細身の身体、目の下のクマ、ニヒルな笑み。以上の特徴を持つ「僕」の憧れの存在であるタイラーは、筋肉隆々で健康的な小麦色の身体、屈託のない笑顔が持ち味だ。「僕」とは正反対の素質を持つ存在として描かれることで、鮮やかなコントラストをなしている。
タイラーに扮するブラッド・ピットは、精神に病を抱えた男をハイテンションで演じた『12モンキーズ』(1995)の役柄を引き継ぐような奇天烈な演技で、反道徳のカリスマを怪演。
「すべてを失って、初めて真の自由を得る」、「お前は物に支配されている」といった名言の数々は、「僕」のみならず、観る者の価値観にも揺さぶりをかける。
マーラを演じるヘレナ・ボナム=カーターは、ティム・バートン作品でお馴染みの役者であり、『ビッグフィッシュ』の魔女役など、特殊メイクの力を借りたキャラクター作りを得意とするタイプ。
本作でもメイクアップ技術によって「僕」とよく似た、いかにも不健康そうなルックスを実現。酩酊状態でタイラーと対峙するシーンでは、ぶっ飛んだ芝居でブラッド・ピットを圧倒する。
後に『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013)によってアカデミー最優秀助演男優賞を獲得するジャレッド・レトを始めとする「ファイト・クラブ」のメンバーも、終始異様なテンションの芝居に徹しており、作品が放つ危険なムードを高めることに寄与している。