主人公が殺人を繰り返す悲しいワケとは?~脚本の魅力~
本作の基となる物語を着想したのは、クリストファー・ノーランの実弟、ジョナサン・ノーランである。『メメント』というタイトルはジョナサンが執筆した短編小説「Memento Mori(メメント・モリ)」に由来。これは、「死を忘れることなかれ」という意味をあらわすラテン語の警句であり、その一部を抜粋した本作のタイトルは、忘却に抗う主人公の姿勢を端的にあらわしている。
斬新なアイデアと緻密な構成を誇る本作は、第74回アカデミー賞にて脚本賞にノミネート。何度もリピートしたくなるほどの中毒性が魅力だ。
パズルのような構成で思考を翻弄する本作のストーリーだが、その難解さは、もっぱらノーラン一流の編集マジックによって作り出されたものである。変則的に配置された映像の断片を時系列順に並べてみると、以下の事実がクリアとなる。
・強盗によって襲われた妻は死んではおらず、生きていた
・妻は前向性健忘を患ったレナードを看護することに疲れ、自ら命を絶った
・レナードは物語が始まる前の段階で、すでに強盗犯を殺し、復讐を遂げていた
・それにもかかわらず、レナードは復讐を終えたという事実を忘れ、手当たり次第殺人を繰り返している
・テディ(ジョー・パントリアーノ)やナタリー(キャリー=アン・モス)は協力者のフリしてレナードを利用している
ちなみに本作のスペシャルエディション版のDVDには、映像を時系列順に並べ直した「リバース・バージョン」が収録されている。こちらを観ると、妻の死を認めることができず、復讐の鬼と化す主人公の悲しい運命がストレートに描かれており、胸を打つ。
殺人と否認(こいつは真犯人ではない)を繰り返すレナードを生へと駆り立てているのは、もはや復讐心のみ。復讐の完了を認めてしまえば、彼には生きている理由などない。映画全体を包む暗く沈鬱なトーンは、主人公の悲しいサガに関わっているのだ。