タトゥー、傷、アザ…。体を張った渾身の芝居に注目~配役の魅力~
主人公のレナードを演じたのは、1967年生まれのガイ・ピアース。オーストラリアでキャリアを築き、1997年公開の名作『L.A.コンフィデンシャル』でハリウッドデビュー。本作では、10分しか記憶が持たない「前向性健忘」を患う男をカラダを張った演技で快演し、個性派俳優として飛躍するきっかけとなった。
レナードは記憶をつなぎ止めるために、身体中に刺青を彫りつける。したがって、上半身をさらけ出すシーンが多く、ガイ・ピアースは肉体を通じてキャラクターの混乱した思考を表現している。
「記憶」ではなく、メモやタトゥーを駆使した「記録」を頼りに事件解決に臨むレナードは、「記憶は思い込みだ。記録じゃない」と語り、自身の行動を正当化する。一方、何者かが妻を殺し、自身に障害を負わせたという記憶だけは頑なに信じており、その結果、レナードは憎しみと暴力の無限ループから抜け出せないでいる。本作は、主人公が他人に向けて発した言葉がブーメランのように返ってくる構造を持っているのだ。
心を病んだ男がたくましい上半身をさらけ出し、役者の色気と狂気がスクリーンいっぱいに充満する。男性の半裸姿を魅力的に描いているという点で、『タクシー・ドライバー』(1976)や『ファイト・クラブ』(1999)と比べてみるのも一興だろう。
レナードを手助けする謎の女性・ナタリーを演じたのは、映画『マトリックス』シリーズのトリニティ役として知られる、キャリー=アン・モス。初登場シーンでは、殴られたような顔のアザが痛々しく、恋人のジミーによって殴打されたとレナードに泣きつき、彼の殺害を依頼する。
しかし、のちに彼女は嘘を吐いたことが判明。ナタリーの顔のアザはレナードがきっかけであった。彼女の顔のアザは、混乱した物語をクリアに見通すためのキーイメージとなっている。
レナードの犯人探しを手伝う男・テディに扮するのは、名バイプレイヤーであるジョー・パントリアーノ。いかにも人好きのする雰囲気でレナードに近づくも、実は彼を利用しており、時折見せる裏の顔にゾッとする。ちなみにパントリアーノはキャリー=アン・モスと同じく、『マトリックス』(1999)の出演者でもある。