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不安な気持ちをかき立てる「シェパードトーン(無限音階)」を活用した音楽の魅力

時系列を逆向きにしたユニークな構成で人気を博する本作だが、音楽にも実験的な手法が用いられている。イギリスの作曲家、デヴィッド・ジュリアンが手がけたスコアの一部は、「シェパードトーン(無限音階)」を採用。

「シェパードトーン」とは、特殊な手法で音を重ね合わせて、聴覚に錯覚を引き起こす技術のこと。音のトーンが上昇しているように聴こえるものの、実際の音階は高くなっておらず、聴く者に独特のループ感覚を感じさせる。実験的なサウンドトラックは、作品全体を不穏な雰囲気で包み、独特の迷宮感をもたらしている。

ノーランは本作以降、「シェパードトーン」を駆使した映画音楽を大々的に使用するようになり、作曲家・ハンス・ジマーと組んだ戦争映画『ダンケルク』(2017)では、緊迫感あふれる効果を発揮。アカデミー音楽賞にノミネートされた他、録音賞・音響編集賞を受賞。ハンス・ジマーと組んで以降、ノーラン作品の音楽・音響面への評価はうなぎ登りだが、その成功の影には、デヴィッド・ジュリアンと組んだ本作における実験的な試みが深く影響しているのだ。

エンディングテーマは、デヴィッド・ボウイによるアルバム「アワーズ…」に収録されている「サムシング・イン・ジ・エアー」。どこかもの哀しいボウイの歌声が、作品の謎めいた余韻を味わい深くしている。

ちなみにこちらの楽曲は、『メメント』と同じ2000年に全米公開された、サイコサスペンスの秀作『アメリカン・サイコ』(音楽は元ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのメンバー、ジョン・ケイルが担当)のエンディングも彩っている。

【使用されている主な楽曲】
David Bowie「Something In The Air」
Daniel May「Ipanema Dreaming」

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