過酷な減量でガリガリに…。ホアキン・フェニックスの一世一代の名演技
主人公のアーサーに扮するホアキン・フェニックスは、トラウマや身体的な損傷による「壊れかけの男」を演じさせたら右に出る者はいない、当代屈指の名優である。アーサーを演じるにあたって徹底した肉体改造を行い、元々82kgあった体重を58kgまでそぎ落とし、不遇の生い立ちからバイオレンスに魅せられていく男を怪演。第92回アカデミー賞では、見事、最優秀主演男優賞を獲得した。
突然、意図せずに笑い声を上げてしまうアーサーの病は、劇中で病名が明らかにされることはないが、「情動調節障害」という実在する神経性障害がモデルとされている。ホアキン・フェニックスは撮影前に「情動調節障害」に苦しむ人々の映像をチェックし、芝居の参考にしたと公言。その甲斐もあり、アーサーの発作には芝居を超えたリアリティが宿っている。
アーサーが憧れるコメディアン・マレーを演じるのはロバート・デ・ニーロ。『タクシードライバー』、『キング・オブ・コメディ』という本作の元ネタとなった作品の主演俳優である。上記の作品では、社会からあぶれたアウトローを演じているが、本作ではそうした存在を嘲笑し、糾弾する、社会側の人間を憎々しげに演じており、比べて観ると面白い。
アーサーが思いを馳せるソフィーを演じたザジー・ビーツは、芯のあるシングルマザーを好演しているものの、主人公の妄想を引き立たせる役割に甘んじており、深みのあるキャラクターとはなっていない。その指摘は、アーサーの母・ペニーを演じたフランセス・コンロイ、トーマス・ウェイン役のブレット・カレンにも当てはまり、アーサー以外の全ての登場人物は彼の苦悩を引き立たせるために存在しているように見える。
例外は、アーサーに唯一良心的な態度で接する元同僚・ゲイリー(リー・ギル)である。彼の役柄は原作でジョーカーの相棒となる小人症のピエロ・ギャギーがモデル。本作では物語の本筋に絡むことはないが、アーサーが唯一心を預ける人物として、観る者に強いインパクトを与える。