完成度の高い音楽を手がけたのは若き女流チェリスト
アイスランド出身の作曲家でありチェリストでもある・ヒドゥル・グドナドッティルが手がけたオリジナルスコアは格調高く、映像の持つ力を引き伸ばしている。グドナドッティルは本作でアカデミー賞最優秀作曲賞を獲得。アーサーが少年たちに看板を奪われた挙句、ボコボコにされるシーンでは、チェロの悲痛な旋律が響き渡り、その低く抑えられた音色によって、主人公の鬱屈した感情が上手く表現されている。
本作では、オリジナルスコア以外にも、既存の楽曲が効果的に使用されており、そのほとんどは1930年代から70年代までの、古き良きアメリカのスタンダード・ナンバーである。アーサーが初めて舞台に立つシーンでは、歌手でありコメディアンでもあるジミー・デュランテが歌う『スマイル』を使用。「心が折れそうなときも笑顔を」と歌われる歌詞の内容は、アーサーのキャラクター及び心情にあまりにもシンクロしており、感動をもたらすと同時に、ちょっぴりあざとい印象も与える。
アーサーに感化された暴徒によって街が破壊されるシーンでは、ロックバンド・クリームが1968年に発表した楽曲『ホワイトルーム』が使用されている。重厚なギターサウンドが燃え盛る街の映像にマッチしている上、楽曲のタイトルであるホワイトルーム=白い部屋は、その後に続く隔離病棟のシーンを予告している。本作は繰り返し観ることで、使用楽曲の歌詞やタイトルに注意が向かい、新しい発見が得られるのだ。
《主な使用楽曲》
フランク・シナトラ『That’s Life』
ジミー・デュランテ『スマイル』
ゲイリー・グリッター『Rock ‘n’ Roll (Part 2)』
クリーム『ホワイトルーム』