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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 演出の魅力

ポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)による5本目の長編劇映画。舞台は20世紀初頭のアメリカ、主人公は地球の資源を己の利益に変えていく石油業者の男である。主人公が一文なしから大富豪にまでのぼり詰めていくサクセスストーリーであると同時に、権力の拡大にともない人間関係をこじらせ、孤独に堕ちていく姿を描いた悲劇でもある。

ポール・トーマス・アンダーソン
ポールトーマスアンダーソンGetty Images

前作『パンチドランク・ラブ』(2003」)まで、“生きることに不器用な人々”の愚かながらも憎めない行動を、軽妙なタッチで描いてきたPTAは本作で演出スタイルを一新。油にまみれ、汗にまみれ、血に染まりながらも、利益追求をやめない主人公に向ける視線はシリアスそのものである。

物語の核となる油田発掘シーンは、多様なアングルから入念のカット割りによって描写され、地面から噴き出すドス黒い石油は、まるで主人公ダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)の底知れぬ欲望を可視化したようである。

また、1898年に始まり、世界恐慌目前の1927年で幕を閉じる本作のタイムラインは、イギリスを追い抜いてアメリカが覇権国家にのぼり詰めていった時期と並行しており、石油発掘と領土拡大に異常なまでに執念を燃やす主人公の姿には、国家の繁栄と資本主義の発展が重ね合わされている。

象徴性に富む、欲望と血をめぐる残酷な寓話劇を撮り上げたことで、PTAは真にスケールの大きい作家へと変身を遂げた。その点、本作はPTAのフィルモグラフィにおいて、最もエポックメイキングな作品であると言っても過言ではないだろう。

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