「今回は音にも拘りたかった」主人公の見せ方について
―――ベッドの下に隠れるジフンを映したカットはかなり暗く、彼の表情がクリアに見えないようになっています。そこにはどのような狙いがありましたか?
「不気味さを出したいという思いがありました。ベッドの下で歯を食いしばったり、苦悶の表情を浮かべているようなカットを入れると、それはもうギャグといいますか、観る人も『じゃあ入るなよ』って思うでしょ(笑)?そう見えないようにしたかったのです」
―――2019年の日本版では主人公がヒロインを望遠鏡越ごしに一方的に見つめる描写が強調されていますが、対して本作は、彼女の映像をスマホやスクリーンに映写したりするシーンはあるものの、彼女の存在を確かめる行為としては、見ることよりも耳を澄ませて聞くことに重点が置かれていますね。
「その辺りは凄く意識したところです。最初の脚本からイヤホンで聞いているとか、彼女の昔の映像を見ているという描写は入念に描かれていて、その辺は原作にはない要素なのですが、凄く面白いなと思って活かしました。
今回は音にも拘りたかった。それも単純に音だけを観客に聞かせるのではなくて映像化したほうが面白いと思ったので、ジフンが鉄球を持って耳を澄ませているシーンでは、彼が頭の中で思い描いたイメージを映像化する、という風に元の脚本をアレンジしました」
―――ジフンが自室でヒロインを映したフィルム映像を観るシーンも良いですね。
「原作では主人公はヒロインのマネキンを愛好していて、脚本の初期段階ではそれを三次元のバーチャル映像で表現するというふうになっていたんですけど、それは技術が伴わないと嘘くさくなりますし、予算規模を鑑みても上手くいかないだろうと判断して止めたんです。
それだったら自分でまわしたフィルム映像を映写しているほうがずっと切ない。今回スクリーンサイズも4対3のスタンダードということで、バッチリ合うなと思ってそのように変更しました」
―――スクリーンに向かって霧を吹きかけて、映像が幻想性を帯びていく。これまで様々な映画で男が意中の女性を映した映像を見つめるというシーンは描かれてきましたが、今回のような描写は初めて観ました。
「あれはヒロインの香水を吹きかけているんですよ。原作には“ジャン・ポール・ゴルチエの香水”と具体的な記述があって、それを絵コンテに書いたら美術部が用意してくれたんです」