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ハードエイト 配役の寸評

主役のシドニーを演じたフィリップ・ベーカー・ホールは、30歳を超えてからアクターとしてのキャリアをスタートさせた遅咲きの個性派俳優である。ロバート・アルトマン監督作品『名誉ある撤退 ニクソンの夜』(1984)にて主役のニクソンを演じた経験があり、アルトマンを敬愛するPTAにとって特別な俳優であることは想像に難くない。

ホールは本作の元となった短編『シガレッツ&コーヒー』にもメインアクトとして出演。若い友人の悲惨な話に耳を傾ける聡明な初老男性という、本作につながる役柄を生き生きと演じている。本作では、悩める若者を救いに導く聖職者のような側面を持つ一方、血塗られた過去と業の深さをあわせもつキャラクターを、抑制されたパフォーマンスで見事に体現してみせた。

フィリップ・ベーカー・ホール
フィリップベーカーホールGetty Images

シドニーとの交流によって成長していく青年・ジョンに扮するジョン・C・ライリーは、アクの強いキャラクターを演じさせたら右に出る者がいない、当代屈指の性格俳優である。決して美男子ではないが、焦燥感に駆られた迷える子羊を説得力豊かに演じており、観る者に鮮烈な印象を与える。一方、青年と言うには歳をとりすぎているため、観る人によっては、彼が愚かな言動を繰り返すたびに、フラストレーションを覚えるかもしれない。

今1人のメインキャラクター、ジョンの恋人・クレメンタインに扮したグウィネス・パルトローは、『セブン』(1995)の薄幸な主人公の妻役で注目を集めたイギリス出身の人気女優。本作ではメンタルに不安を抱える女性を熱演。自ら招いたトラブルが過熱し、涙でメイクを崩しながら茫然自失とする姿は迫真に迫っており、メインアクター2人に負けずとも劣らない存在感を発揮している。

シドニーに脅迫を仕掛けるならず者・ジミーに扮したサミュエル・L・ジャクソンは、言わずと知れたクエンティン・タランティーノ作品の常連。本作ではエキセントリックで大仰な芝居ではなく、抑えたトーンでジワジワとシドニーを追いつめていく姿が恐怖を煽る。

両者の対話シーンにおいて、先に声を荒立てるのは紳士であるシドニーの方だ。その後、交渉が決裂し、シドニーが1人車に乗り込むと、ジミーは隙を突いてサイドミラーをぶち破り、拳銃を向け、醜い欲望をむき出しにする。緊張と緩和に富んだ見事なシーン展開だが、その裏にはサミュエル・L・ジャクソンのメリハリのある芝居が大きな役割を果たしている。

ちなみに、ごく短い時間ながら、フィリップ・シーモア・ホフマンも行儀の悪いカジノの客役として出演している。ホフマンは2014年に不慮の死を遂げるまで、『ゼア・ウィル。ビー・ブラッド』(2007)を除くすべてのPTA作品に出演を果たし、歴史に残る名演を残した。本作は映画史に残るコラボレーションの記念すべき第一歩としても位置づけられるのだ。

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