本作における“地震”の意味とは
―――本作は、東日本大震災の余波を受けた人々の不安な気持ちを主軸に描いた作品ですが、原作小説の中で震災を描いているのは、本作のタイトルである『めくらやなぎと眠る女』ではなく、むしろ『かえるくん、東京を救う』や、『UFOが釧路に降りる』の方です。震災というメインテーマは、最初から企画の根幹にあったのですか?
「率直に言うと、“地震”そのものは口実です。企画の流れをお話しすると、まず村上文学を翻案したいという欲求が根本にありました。それで村上さんご本人に私の過去の作品をお見せして、どのように製作するつもりかを直接説明しました。村上さんからは『翻案する作品は自由に選んでいいよ』と仰っていただけたので、選んだお話をベースに私のオリジナル作品を作りたいと思ったのです。
私自身は、外部で起きたことがいかに人間の内部に影響を及ぼすか、その時に人々の内に沸き起こる物語こそが映画の原則であると考えています。今回の場合、物語を引き起こすきっかけが“地震”なのです」
―――翻案という作業をするにあたり、どんなことを意識されたのでしょうか?
「構成をあらかじめ考えていたわけではないので、はじめは何をどうすればいいのか全く分からず、ただ単純にお話を繋げただけのものでした。私は、自分の直感が創作活動の基礎となっているので、インスピレーションに身を任せて、作品毎の繋がりや共通点を見出していったんです。それを繰り返すうちに全体の物語が出来ました」
―――では、 “地震”もその過程で生まれたということですね?
「そうです。作業をしているうちに“地震”というモチーフが自然と全ての物語に共通するということに気づきまして、結果としてそれが作品の土台になりました。地震だけではなく、地下道、地下トンネルという要素もあるのですが、これは短編『かいつぶり』に登場します」
―――『かいつぶり』のお話自体は、本作には登場していませんよね?
「実は『かいつぶり』の物語も元々は映画に含まれていたのですが、製作の過程で完全に無くなりました。ですが、この地下トンネルというモチーフだけが残ったことで、全ての物語をつなぐ地下道のように、作品にとって重要な部分を担ったと考えています。翻案は試行錯誤を重ねる作業ですが、私はそこが翻案の1番面白いところだと思っています」