「人々の共感を安易に得るのは危険」映画『#スージー・サーチ』ソフィー・カーグマン監督インタビュー。SNS時代の闇を語る
第47回トロント国際映画祭のワールドプレミアで話題を集めた新鋭ソフィー・カーグマン監督の最新作『#スージー・サーチ』が8月9日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開される。今回はカーグマン監督のインタビューをお届け。作品に込めた思いをたっぷり語っていただいた。(取材・文:ナマニク)
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【著者プロフィール:氏家譲寿(ナマニク)】
文筆家。映画評論家。作曲家。日本未公開映画墓掘人。著書『映画と残酷』。『心霊パンデミック』サウンドトラック共作。ホラー映画評論ZINE「Filthy」発行人。コッソリと外国の自主制作映画に出演する隠れ役者。
「何故か人は危険やおぞましい状況に惹かれる」
トゥルークライムを題材にしたワケ
“トゥルークライム”と呼ばれるジャンルをご存じだろうか?実際に起こった犯罪事件を基に、事件の経緯、関係者の証言、証拠の分析などを通じて、事実を詳細に描写したドキュメンタリー、ポッドキャスト、本、映画、テレビシリーズのことだ。
映画だと『ヘンリー:ある連続殺人鬼の肖像』(1986)や『モンスター』(2003年)、小説ではカポーティの『冷血』(1966年)、ポッドキャストだと『Serial』シリーズが有名どころだ。
『#スージー・サーチ』は、トゥルークライムポッドキャスト好きが高じて自称名探偵となった大学生スージーが、インフルエンサーのジェシー失踪事件を解決しようと奔走する物語。
しかし、この事件にはとんでもない“裏側”があり、事件解決どころか彼女自身が事件そのものと化していく……。
本作は監督ソフィー・カーグマンの長編デビュー作。2020年に制作した同名短編が評価され、今回映画化にこぎ着けた。
さて本作、主人公スージーの承認欲求モンスターぶりに注目が集まっているが、カーグマン監督の真意は?
―――本作はトゥルークライム系のYouTuberやPodcasterを思い切り皮肉った作品と受け取りました。実際、配信による犯罪分析の流行についてどのようにお考えですか?
「何故か人は危険やおぞましい状況に惹かれるのだと思います。トゥルークライムについての関心は、そんなところからきているのだと考えています」
―――トゥルークライムを題材にしたのは何故でしょうか?
「ご存じの通り、人は常に明確な存在ではありませんよね。様々な事件は人間の多面性や複雑性から成り立つ、非常に複雑なものです。私自身もトゥルークライムものは大好きで、TVシリーズの企画書を書いたのですが頓挫してしまって……。
映画監督をやっていて気がついたのですが、映画制作を通して私自身“人の複雑さが分かる”人になったという自負があります。さらに映画そのものも同じだと思います。物語を通して、タマネギの皮を一枚一枚剝くように人の心理を暴いていくことで“人間はなんて複雑なんだ!”と感じさせる。例えば『ザ・ジンクス』(2015:殺人容疑をかけられた不動産王の長男を巡るフィクションドラマ)なんか、素晴らしい構成でした。人間を描くにはベストな題材だったのです」
―――人間の複雑性を描きたかった?
「そうですね。トゥルークライムというジャンルを通して、様々な人間の側面や複雑さを描ければいいな……と考えていました」