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ブギーナイツ 映像の魅力

映画『ブギーナイツ』の1シーン。左からジュリアン・ムーアとマーク・ウォールバーグ
映画ブギーナイツの1シーン左からジュリアンムーアとマークウォールバーグGetty Images

ブレの少ないステディカムカメラを使った流麗な移動撮影、逮捕されたジェームズ大佐とジャックが面会室で対話をするシーンで見られる極端なクローズアップの切り返し(対面している人間同士を交互に撮影する技法)、プールの中にカメラを沈める大胆なアングルからのカットなど、本作以降PTA作品の名刺となるような映像スタイルが至るところで堪能できる。

とりわけ度肝を抜くのが、夜の屋外から始まり、車や人の動きに合わせてディスコの店内へと入り込み、10名近くものキャラクターを一息で見せきる冒頭4分間のロングテイクである。主人公・フレディはこのカットの最後に登場。その瞬間、映像はスローモーションとなり、彼が物語において特権的な人物であることを強調する。

照明表現にも独創的な工夫が凝らされている。ジャックと新人のポルノ男優トッドが話している席にエディが訪れるシーンでは、真っ赤な照明が登場人物の体を照らし、不吉な予感を画面に行き渡らせる。この時点で人気絶頂のエディは間もなく落ち目を迎え、のちに両者は撮影中に喧嘩を繰り広げる。物語の先行きを暗示する、見事なライティング効果である。

本作のスクリーンサイズは長方形のシネマスコープだが、ポルノ映画のシーンでは粒子の粗い四角形のスタンダード画面に切り替わり、後半に登場するアダルトビデオの撮影シーンでは中間のヴィスタサイズを使用。メディアの変化を視覚的に表現することで、時代の移り変わりを説得力豊かに描き出すことに成功している。

撮影監督は前作『ハードエイト』のカメラも担当した、PTA作品の常連である名手・ロバート・エルスウィット。室外と室内を行き来する大胆な移動撮影、スクリーンサイズの頻繁な切り替えなど、カメラワークの自由奔放度は次作『マグノリア』に比べても高い。その反面、構図の厳格さは劣るため、本作以降の端正な映像を好む人にとっては随所でユルさを感じてしまうかもしれない。

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