「他人への無関心と自分さえよければいいという利己主義が今の社会を作った」作品の底に流れる厭世的なムードについて
——『ニューノーマル』は、オカルティックな『コンジアム』と打って変わって病んだ社会がテーマになっていると思います。チョン監督にとって世の中の“病み”をどんなところに感じますか?
チョン・ボムシク監督(以下、監督)「難しい質問ですね。他人への無関心と自分さえよければいいという利己主義が今の社会を作ったのではないでしょうか。間違った政治も大きな部分を占めていると思います。それにTVを見ただけでも、映画を超えるおぞましい事件が起きていることがわかります。それは皆さんも日々感じられることと思う。それ故、本作を手がけようとなったんです」
——冒頭に流れる、陰惨な事件を伝えるニュースは、そんな実情を伝えるためでしょうか?
監督「そうです。しかも、実際に起きた事件を脚色無く読み上げています」
——ショッキングですね。本作からは、ある種の絶望感というか「仕方がない」といった厭世観を感じます。
監督「同じ状況でも2つの視点があると考えます。一つは「世の中変わってしまったなぁ」と感じる視点。これが厭世観につながるものだと思います。もう一つは『へえ、そんなことがあったんだ』という無関心、無感覚な視点。私はこの相反する2点の混在を逆説的に『ニューノーマル』というタイトルに込めました」
——『ニューノーマル』のキャラクターでいうと『ライフ・アズ・ア・ドッグ』のヨンジンが体現していますね。
監督「ヨンジンの設定はミュージシャンなんです。彼女はパンデミックで仕事ができなくなり、嫌々コンビニでバイトをしている。そして世の中を悲観して「死んでしまいたい」とさえ思っている。まさに厭世観を持ったキャラです。
モデルにしたのは“Smashing Pumpkins”のジェームズ・イハと“a-ha”のモートン・ハルケット。中性的な造形を目指しました。『ライフ・アズ・ア・ドッグ』は世の中に怒りを秘めていた私の若い頃を反映しています。怒りをまき散らすのは良くありません。そんなことしても状況が悪くなるだけですから。でも、怒っても変わらない。そんな状況に対して憐れみを込めて作ったんです」
——世の中に対する思いがチョン監督の製作の原動力になっていたりしますか?
監督「いい質問ですね。思えば従兄弟達との遊びが原点なのかもしれません。私は従兄弟が多くて、しかも一番年上だったんです。だから、何か遊びを考えるときは私が主導していました。で、考える遊びといえば、皆を怖がらせたり、驚かせたりするものでした。
だから世の中……つまり観客の皆さんとコミュニケーションを取る方法として映画、とりわけホラーを作っているのではないかな。それからヨーロッパや日本の映画が私の栄養分であり土台になっています」