「観客に伝えたいことを一番よく表現できるショットは何なのか」色使いに宿るコンセプト
——オムニバス形式の作品は幾多ありますが、本作はただの連作ではなくフレーミングとエピソードの結びつきがループのようで見事でした。脚本を書くに当たって苦労された点を伺えますか?
監督「シナリオを書いていて難しかったのは、登場人物ごとに時間帯を決めながらチャプターの順番を合わせることでした。 かなり細かく注意を払って作業しました」
——本作の為に『トリハダ』の版権を確保したと伺いました。確かに日常に潜む病的な恐怖という点で『ニューノーマル』に近いものを感じます。エピソードで言えば『今、会いに行きます』が一番『トリハダ』に近い感覚がありましたが、他に気になるオムニバス映画はありましたか?
監督「『ニューノーマル』のような非線形構造の映画としては、ジム・ジャムッシュ監督の『ミステリー・トレイン』(1989)とクエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』(1994)が好きですね」
——各エピソードが往年の名作のタイトルかつ、内容もオマージュを感じます。脚本を組んでいく段階でふさわしいタイトルをつけたのでしょうか? 迷ったタイトルなどはありますか?
監督「ほとんどシナリオを書きながらタイトルをつけました。『ニューノーマル2』のシナリオもすでに書き上げた状態ですが、そこにはホン・サンス監督の映画タイトルもあります(笑)」
——『Do The Right Thing』は、最も不条理な物語だと思いました。かつて、イギリスの首相であったらウィストン・チャーチルは「アメリカ人は正しいことをする。ただし、正しいこと以外をやり尽くした後だがね」という言葉を残しています。監督は、この正しいが安直とも思える『Do The Right Thing』という言葉をどのように受け止めていますか?
監督「考えさせられる質問です。安直な答えに聞こえるかもしれませんが、できるだけ多くの人、さらにすべて人が “正しいこと”をすれば、この世界はもっと良くなるのではないでしょうか」
——『Do The Right Thing』の冒頭、少年達がらせん階段で会話した後の引きの画がなんとも言えない危うさを醸し出していて、気に入っています。どのショットにもこだわりが感じられますが、監督の作品には独特の余白があるように思えます。その点、どうお考えですか?
監督「おっしゃった階段のシーンのように、どの場面を撮る時でも、観客に伝えたいことを一番よく表現できるショットは何なのかということをよく考えます。そのため、コンテ作業とロケーションハンティングを非常に重要視しています」
——私のお気に入りは『血を吸うカメラ(Peeping Tom)』と『My Life as a Dog』です。この2本は『ニューノーマル』の中でも、コメディとシリアスの両極に位置しながらも、繋がりがあります。意図的に振り切ったエピソードにしたのでしょうか?
監督「かなり細かく見てくれていますね! 質問を受けて感動しました。『ニューノーマル』のすべてのチャプターの色が違うのはコンセプトなんです。『M』はアメリカのホームコメディの感じを出そうとしたし、『Do The Right Thing』は白黒の古いディズニーアニメのテイストを借用した。『Dressed To Kill』は本格的なスリラー、『今から会いに行きます』はメロドラマのトーンで作りました」