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「このくらいの優しさがないと世の中に生きる価値なんてない」微かな希望が兆すラストについて

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——チェ・ジウさんのお芝居についてはネタバレになってしまうので触れられないのですが、表情の変化が素晴らしかったです。ヒョンジン役は彼女しかあり得なかったと伺っていますが、その理由をお聞かせください。

監督「ヒョンジョン役は誰も予想していなかったキャスティングであってほしかったです。その点、チェ・ジウさんのキャスティングは我ながら最高だと思いましたし、彼女がこれまで見せてくれたメロドラマ演技を忘れさせてくれる破格的なスリラー演技は本当に素晴らしかったと思います」

——オープニングの冷たいビルの色合いと、エンディングの優しく暖かみのある風景が非常に対比的でした。絶望的なエピソードばかりですが、少しだけ救われますね。

監督「正確に見てくれて嬉しいです。オープニングは6月に雪が降ることも“ニューノーマル”として受け入れなければならない現実を表現しているんです。そしてエンディングは、とある人物が賞味期限の切れたパンを頬張っているんだけど、暖かい色調にしました。『このくらいの優しさがないと世の中に生きる価値なんてないんじゃないかな?』と思ったんです」

——各エピソードの主人公が一人で食事を摂る場面だけを集めた『ひとり飯』もいいですね。韓国映画というと食事シーンですが、チョン監督は食事シーンにこだわりはありますか?

監督「私は食事というと小津安二郎の作品を思い浮かべちゃうんだけど…。映画での食事は家族や友人関係の断面を表していたと思います。昔、食事は家族でとるものでした。ところが、今は一人で食事をとることが普通になった。しかも『ひとり飯』では皆、ゲンナリした顔で食事をしています。孤独や孤立が社会的な問題なのか、システム的な問題なのか? を問いかけたかったんです」

『コンジアム』の破天荒な演出とは裏腹に知的で思慮深いチョン・ボムシク監督。『ニューノーマル』の各エピソードはもちろんオープニングからエピローグまで様々な仕掛けが施してある。続編の予定もあるとのことで、今後社会派ホラー監督として、目が離せない存在だ。

(取材・文:ナマニク)

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