「全てのトピックに対して冷静かつ客観的な視線をキープする」映画監督としての矜持
―――今回の作品は、監督の代表作である『シュリ』や『ブラザーフッド』とは題材が異なることもあってか、画面構成にも違いが見られます。短くテンポのいいカット割りではなく、長い持続で芝居を見つめようとする意識が見られたのですが、いかがでしょうか?
「以前作った作品、例えば『シュリ』とか『ブラザーフット』の場合、アクションや戦争を描く作品だったので、観客があたかもその場にいるような感覚、臨場感や躍動性が求められます。それもあって、カメラを被写体に接近させて撮る、わざと荒々しくカメラを振動させて撮るといった撮影方法を採用しました。
一方で本作では、手持ち撮影をほぼ使っていません。本作では、実際にマラソンを走っている選手の表情の細かい部分、ディテールを逃さずしっかり画面に収めることが重要だったからです。今回は、カメラを安定的なポジションに据えて、しっかり演者の表情を捉えることに集中しました」
―――本作は見応えのあるスポーツ映画に仕上がっていますが、それと同時に、韓国の歴史を学ぶ上でも非常に有意義な作品だと思いました。個人的に、カン・ジェギュ監督の作品を見るたびに、社会性とエンターテイメント性のバランスが絶妙に保たれていると感じます。両者を両立させる上でどのようなことを意識をされていますか?
「バランスが取れているとおっしゃっていただきましたが、私自身、作品を企画する、シナリオを書く、現場で演出をする…と映画監督としてのあらゆる局面で重要視していることがまさにその均衡、バランスを取るということなんですね。
例えば、戦争映画の場合は、激しい戦闘シーン、存在している人間の内面、そして、登場人物を取り巻く政治的な状況、と描くべき要素は多岐にわたります。様々な要素の中のどれか1つに作品の焦点が偏ってしまうことを私は警戒をしているんです。
ポリティカルコレクトネス。全てのトピックに対して冷静かつ客観的な視線をキープする。それは、演出をする者が必ず意識しなくてはいけないことだと思っています」
―――本作はロンドンの映画祭で好評を博したとのことですね。それは本作の物語が普遍的な魅力を持っているからだと思います。自国に根ざして普遍的な映画を撮る上で意識されていることはありますか?
「私が映画づくりにおいて常に大事にしているのは本質を考えるということです。本作を見る人々は、“この映画の本質は何なのか”、“本当に伝えたいことは何なのか”を考えるはずです。
加えて、先ほど申し上げた、作品の均衡を取るということ。それらを念頭に置いて作品を作れば、どの国のどの時代の観客にも通じる普遍的な作品になるのではないか。私はそれを信じて映画づくりをしています」
(取材・文:山田剛志)
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