リコリス・ピザの見どころ(1)
[監督が“型破り”]世界三大映画祭を制した“天才”
ポール・トーマス・アンダーソンの最高傑作が誕生!?
メガホンをとったポール・トーマス・アンダーソン(以下、PTA)は1970年生まれ。出生地は本作の舞台と同じ、カリフォルニア州ロサンゼルスであり、過去の作品の多くが同地を舞台にしている。
監督第4作『パンチドランク・ラブ』(2002)でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞。さらに、5作目の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)ではベルリン国際映画祭、6作目の『ザ・マスター』(2012)ではヴェネツィア国際映画祭でも同賞を獲得し、若くして世界三大映画祭を制覇している。
シリアスなテーマを扱いながらも、随所に笑える要素を入れ込むなど、観客の感情を四方八方に引き裂くのがPTA演出の真髄。
ティーンエイジャーの初恋を描く本作においても、主人公の青年・ゲイリーとヒロインのアラナがそれぞれに向ける思いは決して単調ではなく、愛憎入り乱れた感情を抱えたまま、怒涛のクライマックスになだれ込んでいく。
そんな両者の関係は、『ザ・マスター』における新興宗教の教祖・フィリップ・シーモア・ホフマンと彼を慕いながらも反目するホアキン・フェニックスの関係を思い起こさせ、ステレオタイプな言葉では定義しがたく、ある種の神秘性をまとっている。
とはいえ、「初恋」という体験は、誰にとっても謎めいた、多少なりとも不可思議な出来事であったはず。本作が鑑賞者の「初恋の記憶」を鮮やかに呼び起こすのは、PTAの充実した演出によって、初恋特有の神秘性がしっかりと描き出されているからではないだろうか。