映画『人体の構造について』解説&考察レビュー。“⽣きることの本質”を浮き彫りにする⾚い⾎と⾁の世界とは?
text by 青葉薫
多数の超小型カメラで大型底びき網漁船の漁業の様子を記録したドキュメンタリー映画『リヴァイアサン』(14)で注目を浴びた、ルーシァン·キャステーヌ=テイラーとヴェレナ·パラベルの人類学者コンビの新作『人体の構造について』が公開中だ。多角的な視点から本作の魅力を紐解くレビューをお届けする。(文・青葉薫)
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【著者プロフィール:青葉薫】
横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。
「シネマのために医学のツールを借りる」
『リヴァイアサン』コンビの新たな挑戦
仄暗い階段を男が降りていく。⼀⾒粗野な印象だがインテリのようでもある。⽝を連れている。⽑並みの整った⼤型⽝だ。電⼦キーを解錠して地下駐⾞場を抜ける。鉄扉の向こうに連なる地下通路を進んでいく。冷たいコンクリートの壁はヘイトな落書きで埋め尽くされている。
スイカ型のバッグを提げた⼥と擦れ違う。歩き続ける男の姿に電話の声が重なる。「救急病棟で酔った男が動かない」「すぐ⾏く」男は医者だった。
導⼊シーンにも象徴されているように本作は極めて映像的だ。まず、映像ありき。伝えたいことや描きたいことのために映像があるわけではなく、⾒せたい映像ありきで作品が紡がれていく。そんな印象のドキュメンタリーだ。
網の中でもがく⿂。空をゆくカモメの視点など、かつてないカメラワークと映像⽂法で漁船漁業を映し出した初監督作品『リヴァイアサン』(2004)で圧倒的な映像体験を発明したルーシァン・ キャステーヌ・テイラーとヴェレナ・パラベル。ハーバード⼤学感覚⼈類学研究所の監督コンビが新作の題材に選んだのは、「⼈体」だった。
「現代医学はシネマのツールを使って独⾃の視覚⼒を発展させてきましたが、私たちはその逆に、シネマのために医学のツールを借りることを試してみたいと思いました」 本作の企画意図を監督陣はそう語っている。盲点だった。