“⽣きることの本質”を浮き彫りにする⾚い⾎と⾁の世界
内視鏡が捉えるわたしたちの体内に広がる⾚い⾎と⾁の世界。それは⾃然の造形物としての美しさとグロテスクに満ち溢れている。そこに医師はメスを⼊れていく。すべては患者を⽣かす為の前向きな⾏為である。
にもかかわらず⾁体が切り裂かれたり、そこから流れ出す⾎に恐怖や痛みを感じて多くの⼈は⽬を背ける。中には⾎管迷⾛神経反射を起こして貧⾎で倒れる⼈もいるかもしれない。⽂明社会と呼ばれるわたしたちの暮らしが如何に“⽣きることの本質”を隠した上に成り⽴っているかを思い知らされる。⾃分たちの⽣が多くの死の上に成り⽴っているという真実を⽇常的に⾒なくても済んでいるように。
映像は内視鏡が捉えた体内だけではない。医療現場に取り付けられた記録⽤の定点カメラは 医師たちの姿を観察し続けている。患者の前で繰り広げられる医療従事者たちのやりとりは決して流⾏りの医療ドラマのようにドラマチックなものではない。
「毎週100⼈の患者を診て20⼈で⼿術している。ロボット同然だ」「いつか倒れそうだ。こんなの異常だ」忙しさと慢性的な⼈⼿不⾜を抱える業界への愚痴を零しながら患者の⽣死に関わる医療⾏為に取り組む彼らの姿はなんともシュールだ。「私たちは病院が演劇的な空間、それも悲劇的な演劇の空間であることに気付きました」 監督陣もそうコメントしている。
シュールに感じられるが、これこそがリアルなのだろう。それにしても、と溜め息が出るくらい雑談が多い。オペ室という空間であえて⽇常的な会話をすることで平常⼼を保とうとしているのだろうか。もしくは患者や家族にとっては⽣死に関わる病も何百何千と向き合っている彼らにとっては料理⼈が毎⽇トンカツでも揚げているのと同じような⽇常なのだろうか。どちらにせよ、どんな⼤病も何千何万とある症例のひとつに過ぎないのかもしれないという妙な安⼼感に包まれていた。