医学は芸術とともに発展してきた
『はたらく細胞』や『インサイド・ヘッド』(2015)など⼈体の内部組織を擬⼈化した作品が近年国内外で次々に制作されているが、本作はその究極のリアル版ともいえるのではないだろうか。
そこには⼀切の誇張も脚⾊もない。命と向き合う医療従事者たちのリアルな⽇常。処⼥作『リヴァイアサン』に環境問題に関する主張がなかったように本作にも明確なメッセージのようなものはない。参与観察。否定も肯定もせず、ただ記録していく。
そこからわたしが受け取ったのは、彼らは無敵のヒーローではないということ。わたしたちと同じ⼈間なのだということ。医療現場で働く労働者なのだということ。コロナ禍でウイルスと戦った世界中の医療従事者たちがそうだったように。
遺体に⼿早くエンゼルケア⽤の服を着せていく医療従事者たち。緊急帝王切開で下腹部と⼦宮を切開する助産師たち。「集中治療室で働くと、毎⽇死と向き合うから”今⽇を楽しまなければ”と思うの」としみじみ漏らす看護師。
⺟親の⾚い体液に塗れた⾚ん坊が産声を上げる。病院が⽣と死を繋ぐ場所であるという真実の凄味にひたすら圧倒される。わたしたちの⽣がこうした“⾒えない労働”によって⽀えられているのだという事実に敬服し、深く感謝する。
⼈類は太古の昔から体内という⼩宇宙を探求し、⽣と死の謎を解き明かそうとしてきた。その試みが⼈体彫刻を初めとする数多の芸術を⽣み出してきた。レオナルド・ダ・ヴィンチは⼈間の⾁体を正確に表現するために⾃ら解剖まで⾏った。
医学は芸術とともに発展してきた。最先端の技術を⽤いて「⼈体の構造」を映画芸術に落とし込んだ本作がそのことをわたしたちに思い出させてくれる。
(文・青葉薫)
『人体の構造について』 11月22日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷&有楽町ほか全国ロードショー
【作品情報】
監督:ルーシァン・キャステーヌ=テイラー&ヴェレナ・パラヴェル
2022年 / フランス・スイス・アメリカ / フランス語 / 118分]
©︎Norte Productions – CG Cin?ma – S.E.L – Rita Productions – 2022
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