物語に没入する法廷劇
転落死事件を中心に見せていくのではなく、弁護士ヴァンサンと被告人サンドラの会話、検察と被告人のせめぎ合い、特にヴァンサンと検事の間で交わされるロジカルなバトルを通じて、ジワジワと全貌を浮き彫りにしていく様は、ヒリヒリするほどの上質な法廷劇だ。
完成度の高い脚本と、キャストの素晴らしい演技が噛み合っているだけではなく、物語の設定も一捻りが効いている。周囲に何もない孤立した雪山。被害者を最初に見つけたのは盲目の息子。
容疑者の妻はドイツ人で、英語はネイティブレベルで話せるが、母国語ではないフランス語では、法廷の場でも、参審員(陪審員)の印象が悪く不利に働く。そんな中で果たしてサンドラは無罪を勝ち取れるのかという点が最大の見どころだ。
サンドラとサミュエルの正体が明らかになっていくに連れ、両親のトラブルの狭間で揺れるダニエルの複雑な心境を案じ、見る者ですら、サンドラを罪に問うべきか否かを考えさせるような臨場感があり、いつしか物語に没入してしまうのだ。