オリジナルストーリーの賛否
かつて、南伊豆・池照町の草成寺の「おしょーさん」(鈴木慶一)に子猫のころに拾われた猫「あんずちゃん」(森山未來)が主人公の本作。
彼は、猫の平均寿命を過ぎても死なず、30歳を過ぎて化け猫となり、言葉を話すことができ、二足歩行で人間のような素振りを見せる。おしょーさんの養子となり、寺の仕事を適当にしながら、町の人たちとも溶け込んでいるのだ。
周囲の人たちは、あんずちゃんを見ても何も驚かず、化け猫だという認識はあるが、1人の人間のように接している。まるで『ドラえもん』のような世界観だ。
また本作は、原作には登場しない「かりん」(五藤希愛)という小学5年生の女の子が、「おしょーさん」の息子・哲也(青木崇高)の娘として登場するオリジナルストーリーとなっている。哲哉は借金まみれで、20年ぶりに訪れた実家である草成寺にかりんを預け、またどこかに出て行ってしまったのだ。
そんな、哲也を軽蔑している、かりん。彼女は、大好きであった母親も病気で亡くしており、寂しい気持ちからか、人とも、あんずちゃんとも打ち解けない。
原作ファンからすれば、まず、このオリジナルストーリーに賛否が分かれるところであるが、筆者は「有り」だと判断したい。
そう考える理由は、原作は、作者が狙っているのだろうが、手塚治虫や水木しげるといった昭和初期の作家を彷彿とさせるような画風である。かりんとその両親はいわゆる今風の造形のキャラクターとして登場するのだ。
このコントラストが、不思議な化学反応を起こし、こういった手法はなかなかないのではないかと、久野遥子監督の手腕に脱帽したのだ。