④父親と双子の兄弟の正体
本作は、家族が非常に重要な役割を担っている。本作に登場した家族は以下のとおりだ。
・モナとボーの家族
・ボーを車ではねたロジャーの家族
・ボーを迎え入れた森の孤児
・ボーの双子の弟と父親
様々な家族が登場するが、いったい家族とは何なのか? その答えは冒頭シーンで描かれている。
冒頭でカウンセラーがボーに対し、「家族とは、死んでほしいと同時に死んでほしくない存在」と言っており、またアリ・アスター監督も家族のことを「わずらわしい存在」とインタビューで答えている。
つまり家族とは、”大切な存在であると同時に、わずらわしく消えてほしい存在”であることがわかる。
事実としてボーが母親であるモナの葬儀に行く決心が着いたのは、モナの会社に初恋の人であるエレインがいたからであり、ボーが潜在的に母親ではなく、エレインに会いに行こうとしていた、ということがわかる。
続いてボーを車ではねた罪悪感からなのか、献身的にボーの看病をするロジャー一家だが、その逸脱した親切にはどこか恐怖を感じさせる。
そんなロジャー一家が表すものは、”親切心が生む狂気”である。
実際にロジャー一家の娘であるトニは、両親の愛と自分の部屋をボーに奪われたと感じており、最終的にはペンキを一気飲みして自殺してしまった。
また精神を病んでいるジービスも、薬の力でロジャー一家に支配されているように見える。
続いてボーが森の中で出会う演劇集団、森の孤児たちだが不思議な生活スタイルを行なっている。
そんな森の孤児たちが表すものは、”人生の自由”である。
森の孤児たちの中には、妊娠している女性、ビジネスマン、放浪者など様々な人種が入り乱れている。
また次々と拠点を移動しており、去り際には演劇を行う、など自由気ままな人生を過ごしている集団である。実際に行われた演劇も、1人の男が人生と家族を求めて旅に出かける演目であった。
どれもボー自身には持ち合わせていない要素であり、ボーとの対比をわかりやすくするために森の孤児たちを登場させたのだと考えられる。
最後にモナの家の屋根裏には、ボーの双子の弟と巨大なペニスの姿をした父親が監禁されていた。
ボーが夢の中でモナに叱責され屋根裏に連れて行かれる少年の姿を見ていたが、あの少年はボーの双子の弟だったということがこのシーンでわかるのだ。
そして気になる父親の正体だが、”性欲に支配された、だらしのない男性”を象徴していると思われる。アリ・アスター自身、「父親の正体については真剣に考える必要なし。ダメな父親として描いている。最後に馬鹿げたことをやりたかった」とインタビューで答えていることから推測できるのは、本来の姿は人間なのだろうが、ボーやモナの目には男性器のような姿に見える、ということだろう。
本作はアリ・アスターの真骨頂とも言える映画であり、その難解さは過去作である「ミッドサマー」「ヘレディタリー 継承」を大きく上回っている。
是非ともこの怪作を純粋無垢な心で楽しんでいただき、ボーの最後の審判を見届けてもらいたい。
(文・ニャンコ)
監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:BEAU IS AFRAID
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#ボーはおそれている
配給:ハピネットファントム・スタジオ|R15+|2023年|アメリカ映画|上映時間:179分
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