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今、ボブ・マーリーの伝記映画が求められるワケ。『ONE LOVE』考察レビュー(3)求心力を増すマーリーの思想とは?

伝説のレゲエミュージシャンの波乱万丈な人生を映画化した『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が公開中。1976年から78年にかけての「激動の1年半」にフォーカスした本作を、ブラックミュージックに精通する文筆家・長谷川町蔵によるレビューをお届け。作品の魅力に迫る。(文:長谷川町蔵)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】

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【著者プロフィール:長谷川町蔵】

東京都町田市出身。映画や音楽を中心として色々なものについて文章を書いている文筆家。主な著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(山崎まどかとの共著、DU BOOKS)、「文化系のためのヒップホップ入門1〜3」(大和田俊之との共著、アルテス・パブリッシング)など。

マーリーの思想が今も求心力を持ち続けるワケ

映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
© 2024 PARAMOUNT PICTURES

 もしマーリーの人生すべてを網羅しようとしたなら、おびただしい登場人物が現れては消えていくだけで終わってしまい、彼がジョギングしたりサッカーに励むシーンは確保できなかったはず。だがオフタイムにおける人間マーリーの魅力を描かない限り、ラスタファリンとしての彼の思想が危うく映ってしまう可能性もあっただろう。

 ドレッド・ロックス(ドレッド・ヘア)やガンジャ(マリファナ)といったアイテムから、オーガニックでリラックスしたライフスタイルのように思われがちなラスタファリズムだが、その実態は資本主義(バビロンと表現される)に背を向けた反体制的なアフリカ回帰運動である。

 救世主(ジャーと呼ばれる)とみなされているのは、1930年にアフリカのエチオピアに皇帝として即位したハイレ・セラシエ1世。しかし現実の彼は救世主などではなかった。それどころか失政によって国を疲弊させ、1975年に軍に暗殺されてしまったのだから(なおエチオピアの経済はその後も悪化し続け、80年代に英米のアーティストがこぞってチャリティー・ソングを発表。クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)でも描かれた「ライブ・エイド」の開催に至る)。

 それでもマーリーは、セラシエの死の直後にシングル「Jah Live(ジャーは生きている)」をリリースするなど生涯、敬虔な信者であり続けたのだ。

 今だと「宗教カルト」扱いされかねないマーリーの思想だが、それでもなお彼のメッセージが今もリスナーに刺さるのは、「近代資本主義が本当に人々を幸福にしているのか」という疑問が健在どころか拡大し続けているからにほかならない。

(文・長谷川町蔵)

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