ボブ・マーリーのキャリアを理解した作り手による大胆な物語構成
レゲエ・ファンの中には、ピーター・トッシュやバニー・ウェイラーとの友情が殆ど描かれないことに不満を抱く人もいるかもしれない。後にそれぞれソロ・アーティストとして成功するふたりが在籍していた時代のウェイラーズは、マーリーのバックバンドではなくイーブンな関係のコーラストリオだった。
しかしそれでも彼らがスカの名門レーベル、スタジオ・ワンのオーナー、コクソン・ドットのもとに押しかけ、伝説的なプロデューサー、リー・ペリーが見守る前で初めてのヒット曲「シマー・ダウン」を披露するシーンはしっかり用意されている。本作のスタッフは、マーリーのキャリアをよく知らないのではなく、理解した上で敢えて『エキソダス』期にスポットを当てているのだ。
こうした大胆な判断が、ウィリアムズ姉妹の伝記映画『ドリームプラン』(2021)で知られるレイナルド・マーカス・グリーンなのか、脚本家のひとりとしてクレジットされている映画『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(2014)のテレンス・ウィンターによるものかは明らかでないのだが、結果としては映画を良い方向に導いたと思う。