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村上春樹作品のアニメ化は成功したのか? 映画『めくらやなぎと眠る女』が描く「東京」という箱の中身。考察&評価レビュー

text by 青葉薫

音楽家でアニメーション作家のピエール・フォルデスによる映画『めくらやなぎと眠る女』が公開中。村上春樹による6本の短編を長篇アニメーションとして再構築するにあたり設定された舞台は、東日本大震災から5日後の東京。わたしたちはそこにどんな自分を見つけるだろう。(文・青葉薫)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:青葉薫】

横須賀市秋谷在住のライター。全国の農家を取材した書籍「畑のうた 種蒔く旅人」が松竹系で『種まく旅人』としてシリーズ映画化。別名義で放送作家・脚本家・ラジオパーソナリティーとしても活動。執筆分野はエンタメ全般の他、農業・水産業、ローカル、子育て、環境問題など。地元自治体で児童福祉審議委員、都市計画審議委員、環境審議委員なども歴任している。

年代も登場人物も異なる村上春樹の6つの短編を再構築した野心作

映画『めくらやなぎと眠る女』
© 2022 Cinéma Defacto – Miyu Productions – Doghouse Films – 9402-9238 Québec inc. (micro_scope – Productions l’unité centrale) – An Original Pictures – Studio Ma – Arte France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

 物語の登場人物は自分が実在していないことに気づいていない。一部のメタフィクションを除いて。気づいているのは彼らの創造主である作者と読者だけだ。しかしながら、現実世界から物語という異世界を覗き込んでいるわたしたちの視線を彼らが意識していないと、誰が言い切れるだろう。

 7月26日(金)にユーロスペース他にて劇場公開された映画『めくらやなぎと眠る女』。村上春樹原作による初の長篇アニメーションである。

 2006年米国で「Blind Willow,Sleeping Woman」として発行された短編小説集に収録された3編「めくらやなぎと、眠る女」(1983)「バースデイ・ガール」(2002)「かいつぶり」(1981)を始め、「地震のあとで」と題する連作「UFOが釧路に降りる」と「かえるくん、東京を救う」(ともに1999)、1994年に長編として書き直された「ねじまき鳥と火曜日の女たち」(1986)と、発表された年代も登場人物も異なる6つの短編を、オムニバスではなく長編映画として再構築したことで原作とはひと味もふた味も違う感触に仕上がっている。

 日本の観客にとって大きな意味を持つのは、作品の舞台が2011年3月11日に発生した東日本大震災から5日後の東京に設定されていることだ。この改変によって、映画の中心にある2作品――阪神淡路大震災後の東京における地下鉄サリン事件の予兆を漂わせていた作品群は、新たな意味をまとっている。

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