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3.11が暴いた「東京」という箱の中身

映画『めくらやなぎと眠る女』
© 2022 Cinéma Defacto – Miyu Productions – Doghouse Films – 9402-9238 Québec inc. (micro_scope – Productions l’unité centrale) – An Original Pictures – Studio Ma – Arte France Cinéma – Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

 東日本大震災が可視化させたもののひとつが自給率の低い「東京」の脆弱性だった。前述したように被災していない東京で電気が消え、コンビニの棚から食料が消えた。

 一方、被災した東北の農家では、首都圏に出荷するはずだった米や野菜であたたかいおむすびや豚汁などの炊き出しが行われていた。東京の報道陣が冷え切ったコンビニのおむすびを1人ひとつずつ持参した被災地で目にした光景――それこそが「東京」の中身でもあったのだ。

 事故を起こした福島第一原発もまた「東京」の中身だった。東京を動かし続けてきた原発で、今度は東京を壊滅させぬよう決死の戦いが繰り広げられた。巨大ミミズに立ち向かった、かえるくんのように。

 当時、東京で暮らしていた人の中にはキョウコのように震災を機に生き方を変えた人も少なくない。郊外へ移住し、土を耕し、自分たちが食べるものを自分たちの手で育てる。環境にできるだけ負荷を掛けないように暮らす。家族との時間を大切にする。東京という箱の中にはないと感じた「中身」を自らの手で生み出そうとした人々である。

 一方、こうした価値観の変化に「絆」という言葉に象徴される全体主義的なものを感じた人々が存在していたのも、また事実だ。

 謎の小箱を届けた女性から「あなたが北海道まで運び他者に渡した箱の中身はあなた自身よ」と言われ「圧倒的な暴力」を発動させようとした小村のように「中身がない」という指摘に抗った人々である。

 かえるくんはそういう人々の為に「東京」を救ったように思えた。その最期の描写がまるで被爆を想起させるかのようにグロテスクなものだったからでもある。今も廃炉に向けたトライ&エラーが続く福島を想起せずにはいられなかった。

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