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アメリカで内戦が起こった場合、少数派に転落するのは?

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
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 それは余りにも極論ではないか? という声もあるだろう。

 しかし、実際、アメリカ社会は客観的な指標から見ても危うい状態にある。専制主義と民主主義をグラフの両端、-10から+10に置き、ある国の政治体制がどの位置に置かれているかを示す「ポリティ・インデックス」という指標がある。アメリカは長い間、+10という民主主義における高いポジションを示していたが、近年、+5付近まで急速に低下している。これ以外にも様々な政治指標があるが、いずれも同様の傾向を示しているのだという。

 そして、内戦が起こりやすい国、あるいは現在進行形で内戦状態にある国は、いずれもグラフの中央、0の値に向かって急速に移行する国に共通することも分かっている。民主主義でも専制主義でもない、アノクラシーと呼ばれる不安定な状態の国で内戦が突如発生するのだ。

 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の成功は、政治学者バーバラ・F・ウォルターを有名にした。ウォルターの『アメリカは内戦に向かうのか(How Civil Wars Start: And How to Stop Them)』という本は、貧しい者や力を持たない者が内戦を引き起こすのではなく、むしろ権力を失うことを恐れる主流派や多数派によって引き起こされる傾向が強いということを、数々の事例を通じて指摘している。

 そして、もしアメリカが内戦にまで転がるなら、長らく社会的勝者であり、また今でもそう見なされている白人が少数派に転落することが引き金になり得るだろうと。

 そうした背景を踏まえて、本作を見ると、確かにジャーナリストたちの行く先々で積極的に戦っているのは、怒れる白人の小集団だ。ある町では、彼らは不愉快に感じる隣人をリンチにかけ、あるいは自分たちが一方的に設定した「アメリカ人」としての基準に満たさぬ人間の処刑を厭わない。そこには敵味方を区別する概念が存在しない。

 ただ、アメリカで起こった内戦という千載一遇の機会を利用して、自分の敵を根絶するという覚悟を固めた人々の集団が、正義を行使して争っている姿が描かれる。

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