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「強いリーダー」を求めるアメリカ人

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
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 戦争という狂気の時代にも、正気を保って暮らす人々は存在する。本作でもWFと政府軍の内戦に一切与せず、どちらの陣営に協力するのも拒否して、自分たちの普段の暮らしを守る、奇跡のような平穏で清潔な町も存在する。

 だが、なぜそのような町が戦場のど真ん中で存在しうるのか、その真意はぜひ映画の中で確認してほしい。

 もちろん、アメリカのような豊かな強国が一夜にして内戦状態になると本気で考えるのは、政治学者や専門家の中でも極少数派だ。しかしバーバラ・F・ウォルターは、アメリカ社会が内戦の手前で民主主義を放棄して、専制主義が行使される可能性は無視できないと危惧している。

 例えば人種を主要な価値基準とするならば、白人コミュニティーが取り返しが付かないほど社会的弱者に転んでしまう前に、既得権益を固定化して独裁を敷くという考えだ。

 サダム・フセイン時代、少数派のイスラム教スンニ派が多数派のシーア派を支配していたイラクは、そんな成功例の一つだが、2003年のイラク戦争でサダム・フセインが排除された結果、イラクはあっという間に内戦状態に陥り、いまだ解決を見ていない。

 だから『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の大統領が統治する、専制主義的なアメリカというのは、きっと絵空事ではないし、今の分断状態が続くなら、いっそ独裁国家になってくれた方が良いと考える人間はかなりの割合で存在する。

 無論、その世界では、自分は支配者の側であるのだが。

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