誤解された“最も怖い映画音楽”ー音楽の魅力
さて、『エクソシスト』といえば、あの音楽を忘れてはならない。「エクソシストのテーマ」として知られる「チューブラー・ベルズ」だ。なんども反復される土俗的で不気味な音楽は、何が起こるわからない本作の強迫的な恐怖をはっきりと表現している。本作をきっかけにホラー映画ではフレーズを反復するミニマルミュージックの起用が多くなっていく。
しかしこの曲、実は本作のために作曲された音楽ではないと言われると驚かれる方も多いだろう。現に、本作で使われている部分は、「チューブラー・ベルズ」の冒頭3分のみで、原曲はその後1時間近く続く長い曲になっている。しかも、作曲者であるマイク・オールドフィールドは、この曲を通して雄大な自然の美しさを表現したと語っている。
実は本作の音楽は、元々『ダーティハリー』(1971)や『燃えよドラゴン』(1973)などの音楽で知られるラロ・シフリンが担当する予定だった。しかし、フリードキンは彼のデモテープを気に入らず、スタジオの駐車場から廃棄。代わりに全くの無名だったオールドフィールドの曲を無断で借用したのだ。
オールドフィールドは、当然この事実に憤慨。しかし、彼の思惑とは裏腹に「チューブラー・ベルズ」はアメリカで大ヒットを記録し、第17回グラミー賞では最優秀インストゥルメンタル作曲賞を受賞することになる。映画史上最も怖い音楽は、映画史上最も数奇な運命をたどった音楽でもあったのだ。
なお、本作では、オールドフィールドの他にもクシシュトフ・ペンデレツキ、アントン・ヴェーベルン、ジョージ・クラムら、20世紀を代表するクラシックの作曲家による楽曲が使われている。重厚なクラシック音楽とホラー映画は、意外と相性がいいのかもしれない。
【関連記事】
元ネタとなった衝撃の実話とは…? ホラー映画の金字塔 『悪魔のいけにえ』徹底考察。グランパの正体とこだわりの演出も解説
21世紀ホラーの最高傑作…元ネタとなった作品は? 映画『ヘレディタリー/継承』徹底考察。アリ・アスターの演出も解説
原作とどこが違う…? 主人公はなぜ狂った? 映画『シャイニング』徹底考察。なぜ人気? 双子の正体、血の洪水の意味も解説