主人公の“弱さ”を引き立たせるアダム・ドライバーの演技
アダム・ドライバーは物語の主役になりつつも、個人の色味を抑えることができる器用な俳優だ。その才能は今回の『フェラーリ』でも遺憾なく発揮されている。
前述したように、アダムと彼が演じた1950年代後半のエンツォ・フェラーリには、年齢の開きがある。しかし、老年に差し掛かっているというのに、落ち着く素振りを一向に見せず、公私に渡ってトラブルを抱えているエンツォ・フェラーリを、英雄としてではなく、ある種の脆弱さを浮かび上がらせるようにして描いた本作において、主役はアダム・ドライバー以外には考えられないと言っていいだろう。
最後に注意事項を一点、史実通りとはいえ劇中で描かれる1957年の“ミッレミリア”でフェラーリのドライバーのアルフォンソ・デ・ポルターゴが起こした事故のシーンはかなりショッキングなものになっている。具体的な言及は避けるが、ホラー映画界隈では“切り株描写”と称されるものが唐突に描写される。
マイケル・マン監督のリアルを求める作風故に、あくまでも事実を描いただけと言えばそれまでだが、予備知識がなかったこともあって初見ではかなりギョッとした。
作品自体は力強い秀作なので素直にお薦めしたい逸品なのだが、この点だけはご注意いただきたい。
(文:村松健太郎)
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